さらに、Bradicich氏は、そのローカル処理リソースをアプリケーションに合わせて調整する必要があると主張します。IoTのエッジ環境は、膨大なセンサーデータ、割り込み、そして即時性の高いデッドラインを伴い、データセンターとは全く異なると指摘します。では、データセンタークラスのサーバラックを設置することで、エッジコンピューティングの要件を満たそうとするのでしょうか。
Bradicich氏は、幾つかの例を示しています。一例として、Airbusは組立作業員にスマートグラスを配備しています。ユーザーがネジの取り付け準備をする際、スマートグラスによって穴の位置が表示され、正しいドライバーがその特定のネジおよび位置の規定トルクに設定されます。作業が完了すると、作業中に取得したデータが記録され、機体の完全な組立ログが作成されます。
これは、実質的に拡張現実(AR)のアプリケーションです。作業員の作業ペースを落とさないよう、これらの作業の多くは即時性を保たねばならないため、ローカル処理でなければなりません。作業員が反応しないシステムを待てないからといって、誤ったドライバーを持ったり、誤ったトルクを設定したりしてほしくないからです。
もう1つの例は、電気フォーミュラ・カー世界選手権シリーズに参戦しているVirgin Racing Formula E チームです。レースのスケジュールは過密で、練習走行から予選が始まるまで2〜3時間しかありません。課題は、練習走行中に遠隔測定器や映像、音声などをマシンから収集してビッグデータ解析を実行し、最適なモーター、シャシー、タイヤ設定とバッテリー管理が得られるようにマシンを調整することです。
同チームは、2台のHP Enterprise Moonshotサーバラックを使用しており、1 台は本社のラボ、もう1台はピット・エリアに置かれています。どちらもそれぞれのタスクの負荷に合わせて構成されています。同チームは当初、ラボのMoonshotをプライベートクラウドとして使用し、全ての処理をそこで行うつもりでした。しかし、世界選手権シリーズのレース開催地によっては、コンピューティングのデッドラインに対応するのに十分なインターネット帯域幅がないことがすぐに分かりました。そこでエッジ―クラウド手法を考案しました。
コンピューティングクラウド、インターネット、そして「モノ」に溢れた世界という当初の単純なイメージは、はるかに複雑な概念に変化しています。データセンター内のストレージ、コンピューティング、そしてネットワーキングは、複数の(時として重複する)レイヤーに分離しつつあります。
データンターの外では、ネットワークのエッジに新たなリアルタイムコンピューティングレイヤーが凝縮されようとしています。これらの新たな形成は全て、アプリケーションデータフローと実際の帯域幅およびレイテンシの制約という競合する課題への対応です。今後の展開が楽しみです。
(本稿はSYSTEM DESIGN JOURNALに掲載された「New Layers Form within the Cloud」の翻訳です)
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