Willow Garage創業者のScott Hassan氏はかつて、Google創業者のSergey Brin氏やLarry Page氏とともにスタンフォード大学の研究所に在籍していた。そこでGoogleの原型となる検索エンジンの開発に携わり、Google設立のわずか12日後には800ドルの出資を行ったという。また、Hassan氏は自身でもeGroupsと呼ばれる電子メールサービスを立ち上げ、2000年に4億3200万ドルでYahooへ売却している。
こうした経済的な成功を経たのち、Hassan氏は自身が昔から思い描いていたパーソナルロボットの開発というビッグピクチャーを実現するため、Willow Garageを設立した。設立の2006年当時は、人々が日常生活で目にするロボットと言えばiRobotのRoombaくらいしか無かったのだが、彼には家の中を動きまわり、人々の日常生活を助ける汎用自動ロボットが働く未来が見えていたのだ。
なぜHassan氏はパーソナルロボットを開発したかったのか。また、そのために開発したソフトウェアをオープンにするという発想へ至ったのか。2010年5月のPR2 βプログラムローンチパーティのスピーチで、彼は3つの理由を述べている。
まずは「ロボットの生産性を持ってすれば、人々の日常生活を向上させられると感じた」こと。かつて彼がトヨタの工場を訪れた際、1日に1人当たり1台以上車を作ることのできる生産ラインとそこで使われているロボットの働きぶりに感心し、これを工場外でも活用していけば世界を変えることができると感銘を受けたと語っている。
次に、「ロボットの開発はメカ・エレキ・ソフトの各分野の優秀な技術者を集めて協業させる必要があるため、高い専門性と豊富な人脈が必要であること」を挙げた。そして、2006年当時は非製造向けロボットの市場は小さく、投資資金を出す人がいなかったこと。加えて彼以外に専門性、人脈、資金力を兼ね備えている人が見当たらず、「自分がやるべきであろう」と考えるに至った。
そして最後に、とにかく彼自身、そして彼の母親がロボットの大ファンであったことも大きな理由だ。自分の生きているうちになんとか家庭用のロボットを実現させたい。そのためには自社だけで開発していても間に合わず、さまざまな人を巻き込んで、連携していくことが必要だと考えたため、開発したものは公開するというスタンスを取ったのだ。
なお、ロボットファンのビリオネアが皆Hassan氏と同じような考え方かというとそうでもない。米国で成功したロボット起業家として有名なiRobotのColin Angle氏の考え方は対照的だ。彼は「ロボットソフトウェアのオープン化は、これまで築き上げてきた重要な知的財産に他の国が便乗することを許してしまう」と言い、Willow Garageの活動を非難していた。
しかし、壮大なビジョンを描き、利益よりもビジョンの実現を優先する偉大な起業家によって、現在のロボットブームの土台が作られたことは間違いないところだ。
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