IoT/M2Mに固定網ではなく移動体通信網(モバイル網)を使うメリットとして挙げられるのが「ルーターやアクセスポイントなどを設置しなくて済む、設備投資の低コスト化」や「設置に対する物理的な柔軟性」「セキュリティ確保の容易さ」などだ。加えて、生産拠点や事業所の海外展開が一般化している製造業にとっては、国や地域ごとの固定通信網事情を考慮しなくとも済むというメリットも挙げられる。固定網による常時接続が一般化していない国や地域はまだまだ多く、場所によってはモバイル網のほうが安定したデータ通信が可能という事態は珍しくないからだ。
ソラコムが提供する海外サービスにおいては、Web画面もしくはAPIを利用して世界各国で利用されているSIMの状態を把握でき、印刷機械大手の小森コーポレーションが先行試験導入を行っている。小森コーポレーションにおいては世界各国のデバイスがSORACOM Airによって接続されており、取得されたデータは仮想専用線接続サービスであるSORACOM Doorによって、データ解析基盤へと送られている。
2016年5月に参入を発表したLoRaWAN事業についても玉川氏から説明された。LoRaはWi-SUNやZigbeeなどと同じく免許が不要な920MHzの周波数帯域を利用するサブGHz帯無線技術だが、類似規格に比べて通信可能距離が5〜15kmと長く、また、消費電力も低いのが特長とされる。現在は牧場における牛の導線管理、橋梁監視といった場面での実証実験が行われており、PoC(Proof of Concept)キットの提供も開始される。
新サービスの提供、海外展開、LoRaWANへの取り組みなど、いわば“ソラコムプラットフォーム”の拡張を進める同社だが、「低コストによるモノのインターネット化」に期待を寄せる企業は多い。テレマティクスサービスの普及を促進するトヨタ自動車もそうした企業の1つだ。
トヨタ自動車は2002年にテレマティクスサービス「G-BOOK」を開始、2014年にはG-BOOKを「T-Connect」へと進化させることで、地図更新やオペレーターを介した目的地設定、エアバッグ連動ヘルプ機能、リモートメンテナンスなどを提供しており、2020年には高度運転支援サービスも提供する予定だ。
こうしたサービス提供は日本国内にとどまるものではなく、もちろん、グローバルでの提供も予定されている。しかし、「注力分野ながら、テレマティクスサービスの海外展開には課題も多い」とe-TOYOTA部 部長の藤原靖久氏は指摘する。
課題として藤原氏は「国や地域ごとに通信仕様が異なる」「国や地域ごとにキャリア専用のSIMが必要」「キャリアごとに用意しなければならない通信認証設備とその運用コスト」「地図や緊急通報サービスの未整備」の4点を挙げる。これらを一挙を解決することは難しいが、同社ではグローバル対応の通信プラットフォームを構築することでその多くを解決する計画だ。
このプラットフォームはDCM(Data Communication Module)を共通化して主要国で販売される全ての新車に搭載、通信部分はKDDIが調達および開発運用を行う計画となっているが、この方法が通用するのは「自動車が新車」であり、利用地域が「ある程度通信インフラが整った先進国」に限られてしまう。
そこで藤原氏が期待するのが、「通信インフラのクラウド化」を提供するソラコムのサービスだ。同社は通信の固定設備を持たないがゆえに、素早い開発と実装が可能であり、提供コストを下げることもできる。また、前述のようにグローバル展開も開始しており、トヨタの目的である「グローバル対応テレマティクスサービス」への寄与が期待できる。
当面はコストや開発速度といったメリットが生きる、新興国市場に向けたテレマティクスサービスの通信インフラとしてソラコムのサービスを検討するが、運用実績を重ね、将来的には世界的な導入も視野に入れるとしている。
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