MVNO(仮想移動体通信事業者)は格安スマホ向けサービス。そんな認識は過去のものとなりつつある。客層分析や遠隔監視、施工支援などさまざまな用途に使われ始めており、トヨタもテレマティクス普及の切り札として検討中だ。
IoT/M2Mに最適化したサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)であるソラコムが、2016年7月13日にカンファレンス「SORACOM Conference 2016 “Discovery”」を開催した。基調講演では同社代表取締役社長の玉川憲氏が同社のこれまでの取り組みと新サービスを紹介した他、トヨタ自動車 e-TOYOTA部 部長の藤原靖久氏もゲストスピーカーとして登壇、テレマティクスサービスの視点からソラコムへの期待を語った。
ソラコムが提供する「SORACOM Air」は、NTTドコモの通信網を利用するMVNO接続サービスだが、IoT/M2Mに特化したサービスメニューを提供するのが大きな特長。同社は交換機を始めとした通信制御機能をハードウェアとして所有しておらず、AWS(Amazon Web Service)上にソフトウェアとして実装することによって、利用者が通信速度変更やデータ量監視、通信の開始/停止などを自由にコントロールできる環境を用意している。
速度は最大2Mbpsと抑えられているが、1MBあたり0.2円からとパケット単価が安く設定された従量課金制を採用しており、稼働監視のような小さなデータが間欠的に発生するケースに適する。ヒト(が使うスマートフォン)ではなく、IoT/M2Mに特化するという、いわばモノ(Things)向けのMVNOとして急速に利用事業者を増やしており、提供開始から約9カ月で3000以上の事業者に採用されている。
単に接続するだけではなく、通信制御機能をソフトウェア実装することによるサービスメニューの豊富さも特長で、プロトコル変換サービスの「SORACOM Beam」、AWS上の仮想プライベートクラウドとのプライベート接続を提供する「SORACOM Canal」などを用意しており、客層分析や遠隔監視、路線バスの運行案内、施工支援などさまざまな用途で利用されている。
そして基調講演にて新サービスとして紹介されたのが、デバイスからのデータを特定クラウドに直接転送するクラウドアダプター「SORACOM Funnel」、SORACOMのプラットフォームと導入事業者のシステムを仮想専用線で接続する「SORACOM Door」、そしてエンドデバイスへのアクセスを提供する「SORACOM Gate」だ。
同社サービスはこれまで「外部ネットワークからエンドデバイスへのアクセスをさせない」をポリシーとして運用されてきた。これは悪意あるアクセスを遮断するという観点からは大きな意味を持つが、「遠隔制御が出来ない」という大きな制約も生んでいた。それを解消するのが、SORACOM Gateだ。
SORACOM Gateでは同社提供のSIMカードを差し込んだデバイス(エンドデバイス)とサーバをいわば1つの仮想サブネットワークとして提供する。導入事業者のシステムとこの仮想サブネットワークを接続することで、固定グローバルIPを付加したようなデバイスの遠隔制御を可能とする。既にアロバの監視カメラシステム「アロバビュー」にて先行試験導入が行われており、監視カメラ機能を提供するスマートフォンへの安全なアクセス確立のためにSORACOM Gateが利用されている。
こうした新サービスの追加により、合計8つのサービスを展開することとなったソラコムが次に掲げたのが、グローバル対応だ。既に複数の海外キャリヤと契約しており、現時点で120を超える国と地域で同社サービスが利用可能な状態にあるという。IoT/M2Mに特化したMVNOがグローバル対応することは、製造業にとっても大きな意味を持つ。
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