民間月面レース参加の次は、1000台の群ロボットで月面資源探査。ispaceの描く構想は壮大であり、実現するための知見も多く蓄えられている。「群ロボットで宇宙資源探査」の意図を尋ねた。
2016年3月、民間宇宙探査チーム「HAKUTO」を運営するispaceが、ジグソーと共同で月面を探査する群ロボットの研究開発に着手した(宇宙での資源探査を1000台の群ロボットで)。
ispaceは現在、チーム「HAKUTO」として月面探査を競う国際レース「Google Lunar XPRIZE」にチャレンジしており、Google Lunar XPRIZEに関しては2016年6末頃月にはフライトモデルが完成する予定。「宇宙群ロボット」の研究開発は、Google Lunar XPRIZEに次ぐチャレンジへ向けたものとなる。
月面探査レースの終了を待たずに新たなチャレンジを始めるispaceの意図はどこにあるのか。同社代表取締役の袴田武史氏と最高技術責任者(CTO)の吉田和哉氏(東北大学 工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授)に話を伺った。
群ロボットとは、単体としては比較的シンプルな機能のロボットが、複数で群行動を取ることで、システムとして知能的な行動ができないかというアプローチの研究だ。既に40年以上も前から研究されている分野だという。
1975年には7体からなる群ロボットが沖縄海洋博に出展されている。東京工業大学の森政弘 名誉教授らによる「みつめむれつくり」(The Three-eyed Beatles)で、外から集中制御されているのではなく、アルゴリズムを搭載した平等なロボットが、仲間を見つけ、集まってきて群を作るというものだ。
例えば、
というシンプルなアルゴリズムで、あたかも動物の群や魚の群が示す挙動と極めてよく似た挙動を示す(みつめむれつくり)。
吉田氏 群ロボットのアイデアそのものは随分昔からありますし、実験室レベルでの実証や研究もあります。ですが、実際に屋外のフィールド、特に今回資源探査という目的で月面上に展開するような、そういうレベルで役に立つシステムというのはまだ達成できていません。
そこはとても大きなチャレンジになりますし、うまくいけば初めての実用例になると思います。
直近ではスイスK-Teamによる超小型群ロボット「Kilobot」などが市販されており、自律走行や交通シミュレーション、人工知能などの研究開発に用いられている。このように、研究室・実験室レベルでは以前から研究開発が進んでいる分野だが、なぜ、いま、群ロボットを月に、ということになるのだろうか?
袴田氏 ispaceがHAKUTOというプロジェクトの後にどういうことを目指しているのかということになると思うのですが、ispaceとしては「人間が宇宙に生活圏を築いていく世界」を作っていきたいと考えています。
それを実現するには、人間が宇宙にいく理由、豊かになる仕組みを作らなければいけないと考えており、その1つが資源開発のところだと考えていまして、いかに速く、効率的に進めていくかと考えたときに「群ロボット」というコンセプトが浮上しました。
資源開発は非常に大きな事業となってきますが、宇宙というのは非常にリスクが高い。ロボットを送り込んだ後に故障してしまえば、人間が行って直すということもほぼ不可能です。
いままで宇宙開発、宇宙探査といいますと、衛星やロボットを1台送り込んでそれで詳細な探査をするという形が多かったのですが、事業としてとらえたときに、やはりスピードというのが重要になってきます。点や線ではなく、面で効率性を上げていかないといけない。そういったときに、群ロボットというアプローチが有効ではないかと考えています。
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