中小企業が気を付けるべき「秘密情報の目的外使用禁止義務」とは?:いまさら聞けないNDAの結び方(7)(5/5 ページ)
本稿の最後の項目として、NDAの契約書上、秘密保持義務や目的外使用禁止義務がいつまで続くと規定されているかについてのチェックの重要性について説明します。本稿のケーススタディにおいていえば、江戸氏は「NDAの二大義務(秘密保持義務と目的外使用禁止義務)を自社およびCFGモーターズがいつまで(期間的な長さ)守る必要があるか」を確認し、自社の秘密情報の保護が十分に図られるのかを検討する必要があります。
例えば、CFGモーターズから提示されたNDAのひな型の第10条にNDAの有効期間に関して以下の条項があったとします。
(有効期間)
第10条 本契約の有効期間は、本契約の締結日から6カ月とする。
この規定だけで十分でしょうか?
契約上の義務は、契約有効期間内のみ順守すればよいのが原則です。従って、上記第10条の規定のみだと、本契約締結日から6カ月でこのNDAは終了し、CFGモーターズ(大江戸モーター)は、相手方から開示された秘密情報の秘密保持義務や目的外使用禁止義務をその後、負わないということになります。これでは、NDAを締結した意味がほとんどなくなってしまうことになります。
そこで、江戸氏としては、矢面氏に対し、第10条に、以下の条項を追加するよう申し入れる必要があります(下線部参照)。
(有効期間)
第10条 本契約の有効期間は、本契約の締結日から6カ月とする。ただし、第3条(秘密保持義務など)および第4条(開示の範囲)第2文については、本契約終了後も5年間有効に存続するものとする。
これによって、第3条の秘密保持義務や目的外使用禁止義務(CFGモーターズに対するもの)、第4条第2文に規定するCFGモーターズが自社従業員や役員に対して順守させなければならない秘密保持義務や目的外使用禁止義務は、NDAが終了しても5年間有効となります。その結果、NDAが終了しても、大江戸モーターの小型モーターの技術データなどの秘密情報の保護が図られることになります。
以上、7回にわたって、中小・中堅企業が大企業と協業を検討する場合を例にとって、中小・中堅企業がどのようにして自社の秘密情報を守っていけばよいか、筆者なりに説明をさせていただきました。この連載が読んで下さった方のお役に立てたならば、筆者としてはこの上ない喜びです。長らくお付き合いいただきありがとうございました。
(連載終了)
化学メーカーにて、電子デバイスの商品開発および研究開発に従事後弁理士資格を取得し、同社知的財産部にて、国内外の出願関連業務、国内外の渉外業務などに従事。その後、弁理士として独立し、国内外の出願関連業務、国内特許の鑑定などを行う。
慶應義塾大学理工学部計測工学科卒業。慶應義塾大学大学院理工学研究科物質科学専攻修士課程修了。桐蔭法科大学院法務研究科修了。2011年より弁護士法人内田・鮫島法律事務所に入所し、現在に至る。
2000年に弁理士試験合格、2009年に司法試験合格、2010年弁護士登録、2013年弁理士再登録。
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