製造業における、設計書や取扱説明書といった「ドキュメント」の作成は、多くの企業で属人的手工業の状態のままである。本連載では、さまざまな識者が「製造業ドキュメンテーションの課題」を明らかにするとともに、その解決を模索していく。第1回は、「取扱説明書」「サービスマニュアル」に代表される「マニュアル」を取り上げる。
製造業における、設計書、製造指示書、部品表、取扱説明書、サービスマニュアルといった「ドキュメント」の作成は、設計/製造の技術が格段に進歩を遂げる中、多くの企業で属人的手工業の状態のままである。
しかしIoT(モノのインターネット)に代表される新たなデジタル化の波は、特に国内の製造業が手を付けてこなかったドキュメントのデジタル活用にも大きな影響をもたらすだろう。本連載では、さまざまな識者が「製造業ドキュメンテーションの課題」を明らかにするとともに、その解決を模索していく。第1回は、ナレッジオンデマンド社長の宮下知起氏が、「取扱説明書」「サービスマニュアル」に代表される、「マニュアル」と呼ばれるドキュメントの課題について説明する。
あるオフィス機器メーカーは、グローバルチーム(英語圏)と連携しながらのサービスマニュアル作成を課題としている。アフターサービスの展開のスピードアップとサービス品質向上が目的だ。また、ある工作機械メーカーでは、工作機械に埋め込んだデジタル画面での取扱説明書、メンテナンスサービスとコード番号で連携したサービスマニュアル(サポート手順の指示書)の実現を模索している。どちらも最近筆者が出会ったお客さまのニーズだ。いずれのニーズも、従来のマニュアル制作プロセスを変えなければ、実現できないことは明らかだ。
モノを作ってから、設計資料をマニュアル担当者が預かりマニュアルを作る。この方法で時間さえかければ、よいマニュアルが完成するというものではない。設計資料は製造のためのもの、マニュアルはユーザーが製品を使うためのもの。ユーザーのユースケースは製造とは当然異なる。しかし、製品の情報の源泉はエンジニアである。部品情報や3Dデータなど、流用できる情報も多い。設計/製造/ドキュメンテーションの各工程で設計情報をコンカレントに利用できれば、ドキュメントの品質、コスト、サービス品質ともに大きく改善されるはずだ。
コンカレントに情報を利用する仕組みとしてPDM(製品情報管理)がある。PDMはPLM(製品ライフサイクル管理)と連動して生産の効率化を図るために登場した。PDMが管理する情報は、品目情報(部品、製品の識別)、設計情報(設計図、コスト情報、材質、加工法など)である。リードタイム短縮、品質、コストなどの改善を目的としているが、取扱説明書やサービスマニュアルでも、CADデータ、モデル、部品情報、製造指示書、注意書きなどの多岐にわたる情報を共有できれば、品質とマニュアル製造のリードタイムは大きく改善できるに違いない。しかし、まだそういった成功例を筆者は聞かない。
構造化情報標準促進協会(OASIS)が策定する技術文書の作成/管理の規格であるDITA(Darwin Information Typing Architecture)も、設計/製造の情報とマニュアルとで情報を共通化するコンセプトをもつ。海外ではドイツのSAPなどが、国内では横河電機、NEC、ブラザー工業など多くの企業がDITAを採用しているが、情報を共通化するための情報の粒度が導入の成否を分ける。DITA対応ツールの導入だけではうまくはいかないところに、DITAを検討するメーカーのチャレンジが続いている。
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