まず、消費者にとっての重要な意味は、「より自然な入力インタフェース」であることだ。音声をインタフェースとして採用することで、料理中で手が離せないときや運転中で操作ができない時でも、必要な情報を入手したり、家電等のコントロールを実現することが可能となる。
筆者の経験からすれば、特に料理中で手が汚れている時などにこの機能を使えるのは大変有益だと思う。最初は機械に向かって話すことは抵抗あるかしれないが、慣れればその利便性が優先される可能性も大きい。また、現在「デジタルネイティブ」と呼ばれている世代はスマートフォンへの入力に音声を利用するのが普通となっていることから、今後音声入力は一般的になると考えられる。さらに、寝たきりの人が音声のみで家電や照明等のコントロールができるようになることも期待される利用用途の1つだ。
次にデバイスメーカーにとっての意味を考えたい。それは、Alexaを利用することによって音声入力対応の製品開発および他機器との連携を容易に行えることだ。音声入力UIと関連する機能を自社開発するリソースがない企業にとって、自分で開発することなく頭脳と音声入力、そして他社機器も含めた他製品との連携が可能となり、容易にスマートホーム市場に参入できるようになる。
以上の説明からすれば、Amazonにはどんなメリットがあるのか、と首をかしげる人がいるだろう。しかし、最大の恩恵を受けるのはAmazonだ。
AmazonはAlexaをより多くの人に利用してもらい、大量のデータが集まれば、人工知能の精度を急速に上げることが可能となるからだ。つまり、利用者が増えれば増えるほど、Alexaは急激に賢くなる。人工知能の強化は、コアビジネスであるECにも大きなプラスになると考えられる。
Amazon Echoのマイクが常に家内の音声を拾っている状況があると仮定してみよう。「もうすぐで砂糖がなくなる」という会話を拾ったAlexaがその意味とAmazonとして行うべきアクションを考え、結果として、スマートフォンに「Amazon.com」の砂糖購入画面を表示し、購買を促すといったことが可能になるだろう。
つまりAmazonはAlexaを活用することで家内の情報をより広く把握し、その情報からAmazonの購入へとヒトを誘導することができる。もちろん、プライバシーの問題やユーザー心理を考慮すると、すぐにそのようなことが実現するわけではない。しかし、そのような可能性を秘めていることには変わりない。
既にAmazonは米家電メーカーのWhirlpoolなどと提携し、家電の中にセンサーを組み込んで洗剤の残量をモニタリングし、なくなりかけるとスマートフォンに通知して購入ができるような仕組みをつくっている。今後はその「購買」の入り口を音声にすることも可能なのだ。
スマートホームソリューション提供各社が、いかに自社のプラットフォームに開発者やユーザーを引き込むか苦戦している中で、AmazonはAlexaのAPIを公開し、開発者を呼びこむことによって自らプラットフォームの拡大を行っている 。
混迷するスマートホーム市場において、他社とは全く異なる切り口で、しかも、どこよりも確実に家の中に浸透しつつあるのはAmazonではないだろうか。
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