「イノベーションが起こせない国」からの脱出“これからのエンジニア”の働き方(1)(1/2 ページ)

元・メーカー勤務の無線通信LSI専門エンジニアが、技術者派遣会社への転職を機に体験した“大きな変化”を通して考えた「“これからのエンジニア”の働き方」を語る連載がスタート。第1回は「なぜ、日本ではイノベーションを起こせないのか?」というテーマをひも解いていく。

» 2015年11月11日 10時00分 公開

はじめに 〜変革する時代〜

 エンジニアを取り巻く環境が、大きく変わってきています。

 第二次世界大戦後、日本はその勤勉さと団結力で驚異的な成長を遂げ、極東の敗戦国から世界一の経済先進国として注目を集めました。「モノづくりの日本」――世界は「MADE IN JAPAN」で溢れたのです。

モノづくりの世界が変わろうとしている ものづくりの世界が変わろうとしている

 そして今、21世紀。私たちの目の前にある「モノづくり」の市場はどうでしょう。情報化社会により製品トレンドのサイクルは短縮し、次から次へとモノは消費される。あらゆる市場は成熟し、既存製品の売り上げは頭打ち。絶え間なく変化する個人のライフスタイルに今までの成功体験は意味をなさず、「全く新しい体験」をゼロから作り出すことが求められています。

 そう、まさに「イノベーション(変革)」が――。

 この連載では、とあるメーカーにて無線通信LSIの専門エンジニアとして働いていた私(筆者)が、技術者派遣会社に転職したことで体験する“大きな変化”を通して考えた、「“これからのエンジニア”の働き方」について読者の皆さんに共有していきたいと思います。お付き合いください。

イノベーションが起こせない国、ニッポン

 日本では「ソニーのWALKMAN以来、イノベーションを起こせていない」と言われています。なぜ、日本ではイノベーションを起こせないのか? まずはそれをひも解いていきたいと思います。

 イノベーション、それは今まであったモノや仕組みに新技術や全く異なる手法・考え方を取り入れ、新たな価値を生み出すことで社会や組織に変革をもたらすことを指します。新しいアイデアを生み出すクリエイティブさと、その新しさを受け入れ、チャレンジできる土壌が必要なわけですが、それが日本では育ってこなかったのだと思います。

 これには日本の歴史が大きく関係しています。鎖国文化で、他民族や異文化がどどどっと入り込んできた歴史もなく、同じ民族だけで暮らしてきました。“異質なモノ”に対する免疫はどうしても低くなります。

 同じ民族が同じ言語、同じ文化の中に一緒にいるので、「言葉にしなくても言わんとすることを理解する」というコミュニケーションが良しとされ、その結果、「余計なことは口を出さない」文化が生まれました。相手を重んじ、その場の空気を察してコミュニケーションが成立するのは、日本人のいいところでもあり、不思議なところでもあります。

 また、異質なモノや変化に弱く、マジョリティであることを好みます。「人と一緒」であることに安心して、周りがやらないようなことには手を出しません。また、良くも悪くも「過去を継承」することが得意で、新しいモノに対して極端な慎重性を持ち、失敗することをひどく恐れます。

 この国民性は会社組織においても発揮されています。例えば一つ一つの組織は非常に縦割りの関係にあり、他部署で「ん?」と思うことがあっても、そこに口を出すのは僭越(せんえつ)な行為ととられがちです。出しゃばらず、自分の業務範囲の中でできるベストを尽くす。けれどそうなると、視野は狭まり、なかなか抜本的な改革は生み出せなくなっていきます。

 また、日本のメーカーが新製品を市場に出す前には、「石橋をたたいて割る」どころか、「石橋が割れるまでたたく」と言っていいほど、何度も何度もテストが行われます。ミスを恐れ慎重になるばかりで、時間とお金ばかりがかかり、それが価格に上乗せされたり、リリースまで時間がかかって勝機を逸したりすることもあるでしょう。

「GO」と言える強力なリーダーの不在 「GO」と言える強力なリーダーの不在

 従来のやり方を根本から覆すようなやり方を提案するときは分厚い提案書と稟議書を手に、いくつもの部署と何人もの責任者を回ることに。誰か一人、強力なリーダーが「GO!」を出すのではなく、一人一人が責任を分かち合い、リスクをとろうとしません。そして結局、とんがった面白い企画は、丸くなって戻ってきます。

 このように、異質なモノを避けマジョリティを好む点や、個が出しゃばらず互いに干渉しない文化、また、変化による失敗を恐れ「えいやっ!」と新しいことに挑戦できない慎重さ、過去の実績を重視する背景などが、日本のモノづくりにおける「変革」を阻み、「イノベーションを起こせない国」にしてきたのではないでしょうか。

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