デジタルツインが重要になる理由は、現在の製造業の設計開発手法が、まさにそれを実現するツールを欲しているためである。
図上ではCADと一括りにしたが、ここにはシステムズエンジニアリング、モデルベース開発、1DCAEなど開発・設計に関わる全般的な概念およびツールを含んでいる。
システムズエンジニアリングとは、機械や電子回路、組み込みソフトウェアなど、モノづくりに必要な要素を同時並行的に設計していくことを指している。現代のモノづくりはシステムが大規模化・複雑化しているが、エンジニアは機械工学、ソフトウェア工学、制御工学などとそれぞれ専門分化しており、複雑化した全体を俯瞰することが難しくなっていた。これをサポートするのがシステムズエンジニアリングである。
システムズエンジニアリングには、モデルを用いて進める方法があり、それはモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)と呼ばれている。MBSEは構想設計とも呼ばれており、基本概念をトップダウンで描き、製品の構造や動的な振る舞いをモデル化(図式化)し、開発の全行程において、このモデルを用いてシミュレーションを繰り返し、効率的な開発(モデルベース開発)を目指すものである。
こうした取り組みにおいて、1DCAEやモデリング言語による設計、あるいはソフトウェアと実機を含めたシミュレーション(HIL=Hardware-in-the-Loop)などが、最近になって、開発現場で運用されるようになってきた。これらの最先端の開発・設計技術が、IoTによる詳細なセンサーデータの力を借りて、さらに洗練されていくと期待されているのである。
IoTでは、顧客側に設置したタービンなど産業機器にセンサーを搭載し、それを収集・分析することで保守などに生かそうという動きがある。このセンサーデータは、機器単品ごとに記録されるが、そのデータは、将来的には、デジタルツインとしてメーカー側が保持するバーチャル製品とひもづけられるようになる。
そうなると、メーカー側は、実機と全く同じ挙動をコンピュータ上で再現できことになるため、上述した製品構造のモデル化などに役立つものとなる。これにより、その実機の利用データは、改良品や次期製品の開発において、ある変更を加えた場合、どのような挙動を生み出すのかなど、さまざまなシミュレーションに活用でき、精度も格段に上がっていくことだろう。
これを実現するには、ソフトウェア面では新たにIoT基盤(GEのPledixなど)が必要になる。また、機器ごとの稼働データを管理するものとして、主に保守データなどを管理するSLM(サービスライフサイクル管理)を大幅に強化していく必要があるだろう。インダストリアル・インターネットでは、製造業のサービス業化といったビジネスモデルの変化に注目されがちであるが、製造業の根幹である製品開発にも役立つものとなるのである。
具体的には、生産段階でIoTを活用することで、デジタルツインとして作成されたバーチャル工場の精度向上を実現できる。現在でも、デジタルファクトリーを活用して、工場の工程計画やフロアデザインをバーチャル工場でシミュレーションすることはできるが、将来は、ここに生産に関係する詳細な実データをひもづけることで、シミュレーション精度を大きく向上できるようになるだろう。
このとき実データを収集する役割を担うのはMOM/MESである。MOM/MESは本来的には制御系システムとERPとの橋渡しをする機能を持つソフトウェアであるが、インダストリー4.0で描かれているような自律的な生産方式を実現する上でも、また、デジタルファクトリーの精度向上を図る上でも、その計画と実績を掌握するソフトウェアとして、非常に重要なものとなる。
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