ドイツが国家プロジェクトとして取り組むモノづくり革新「インダストリー4.0」。そのバックボーンとなるITシステムで研究の中心的な役割を担っているのがドイツのSAPだ。同社でインダストリー4.0および、IoT(モノのインターネット)への取り組みを統括するIoT市場戦略共同責任者であるニルス・ハーツバーグ氏に話を聞いた。
インダストリー4.0はドイツ連邦政府が主導して進めるモノづくり革新プロジェクトだ。政府の主導のもと、産官学が共同で取り組んで、ドイツ製造業の強化を目指している。インダストリー4.0が目指しているのは、サイバーフィジカルシステムによるマスカスタマイゼーションの実現だ(関連記事:ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】)。
マスカスタマイゼーションとは、大量生産(マスプロダクション)と同様のスピードやコストで、一品モノのようなカスタム製品を作り出すこと。これを実現するためのシステムとして、期待されているのがサイバーフィジカルシステムだ。サイバーフィジカルシステムとは、現実(フィジカル)の情報を、コンピュータによる仮想空間(サイバー)に取り込み、コンピューティングパワーによる分析を行った上でそれをフィードバックし、現実の世界に最適な結果を導き出すシステム。各製造機械や製品がIoT(モノのインターネット)デバイスにより、データを受発信しながら自律的に動作することで、柔軟で高度なモノづくりが可能となる。
これらを実現するには、製造現場に近いシステムだけでなく、基幹システムなどの上位システムまでが一元的につながる世界を実現できなければならない。そのため、これらのシステムを実現するために、さまざまなプロジェクトに参加し支援を行っているのが、ERP(Enterprise Resource Planning)システム最大手となるドイツのSAPとなる。
SAPは、ドイツのインダストリー4.0だけでなく、米国で民間企業がIoTの産業実装のための研究開発を進めるインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)にも参加(関連記事:産業機器向けIoT団体「IIC」、その狙い)。世界的に新たな製造方式の確立に向けた取り組みが広がる中、そのバックボーンを支えるICTで主導的な立場の確立を狙う。SAPでインダストリー4.0やIoT関連事業を統括するIoT市場戦略共同責任者であるニルス・ハーツバーグ(Nils Herzberg)氏に、SAPがなぜこれらの取り組みに注力し、どういう役割を果たすのかについて話を聞いた。
―― SAPはドイツ企業としてドイツ連邦政府が進める「インダストリー4.0」でも大きな役割を果たしていますが、他の国々の取り組みへの支援も積極的です。これらの取り組みをどのように考えているのでしょうか。
ハーツバーグ氏 インダストリー4.0は、ドイツ連邦政府が主導して取り組んでおり、最終的にはドイツにおける製造業の競争力強化という面と、新たな製造関連技術の輸出という両面での取り組みが重視されている。最終的にはドイツ国内における雇用の拡大ということを目指しているのが、このプロジェクトの特徴だといえる。
ハーツバーグ氏 SAPはドイツ企業としてこれらの取り組みを支援していくとともに、ドイツだけでなく、モノづくりを行う国々を支えていく方針だ。対象となるのは、米国、日本、韓国、中国など、製造を行う国々ということになる。
ドイツの競争力ということを考えれば、外部に技術を出さないということも考えられるが、インダストリー4.0そのものが標準化を意識したオープンな取り組みであり、ドイツ以外の企業でも参加できる。そのため、外部企業を締め出すことはない。また、そもそもの目的に関連輸出の拡大も含むため、他国の企業も数多く参加する方が、ドイツ連邦政府にとってもよいといえるかもしれない。
一方で、もともとの狙いであるマスカスタマイゼーションを実現するには、消費者により近い位置で生産を行う必要がある。その意味ではドイツだけに閉鎖しておくわけにはいかない。SAPではインダストリー4.0だけでなく、IICにも参加しており、幅広い製造業の支援を進めていく。
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