まず手始めに「サービスの特性」というものを見てみましょう。サービスの特性として一般的に挙げられるものに、以下の4点があります。
これらの4つを指し示す単語の頭文字からIHIPモデルと呼ぶこともあります。それぞれについてアフターサービス部門のコールセンターを例にして説明します。
無形性とは、姿や形がなく目で捉えることができないということです。モノとしての製品については姿や形が物理的に存在しますが、サービスではこれらは存在しません。例えば、消費者がコールセンターに電話をかけ、オペレーターが疑問に答えてくれたとしても、その対応自体は他人から見て目に見えるものではありません。
異質性とは、サービスは標準化することが困難であるということを示します。全く同じサービス内容であっても、提供者によってそのやり方や方法はさまざまであり、完全に均質なものが提供されるということは非常にまれです。また、顧客によっても受け取り方はさまざまであり、同じ作業を行ったとしても、同じような受け取られ方をするとは限りません。
例えば、コールセンターに電話したとしても、言葉の一字一句まで全く同じ対応をするということはあり得ません。また、そのような機械的な対応をした場合、顧客の求めるものとのギャップが生じ、最終的な目標である顧客の満足度を達成できないでしょう。ただ、近年発展が著しい人工知能の登場で、今後はサービスの標準化も進む可能性も生まれています。
同時性とは、提供と消費が同時になされるというサービスの特殊性を示します。製品と異なりサービスは在庫して後で使用することはできないということです。コールセンターにおいては、人とのやりとりそのものがサービスであり、提供者と顧客が直接コンタクトしている中でサービスが提供されて消費されます。その良しあしがその場で判断されてしまうというところがサービスビジネスの難しさを示しています。
消滅性とは、サービスが提供された段階で消費され消滅してしまうということを示します。つまり保存しておいて後で提供するということが不可能であるということです。例えば、コールセンターの対応に感動したとしても、その感動体験そのものを物理的に保存しておくことはできません。コールセンター側では、顧客とオペレーターの会話内容を録音しているケースが多いですが、これはあくまでもサービス品質の向上などを目的としたものであり、これをそのまま後に提供するということは不可能です。
これらで示したように、IHIPモデルで表現されるサービス特性は、目に見えず体験してもらわない限りその価値を判断してもらうことは難しい上、実際の体験の良しあしでその後の購買行動にも影響を及ぼすという難しい存在です。そのため、新たなサービスビジネスを実現するためには、従来の製造業の基本的な運営方法とは異なる観点からのアプローチが必要になるといえます。
一方で、IoTが示す可能性は、これらのサービスの特殊性の一定部分を機器間通信により、標準化することができ、従来の人間頼みのIHIPモデルによる制約を打破する1つのきっかけになるともいえるかもしれません。そのため、従来にはない新たなサービスモデルが生まれる可能性が出てきたのです。
(次回に続く)
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