スマートファクトリーやインダストリー4.0など「つながる工場」を実現するカギとも見られる、工場情報システム用ミドルウェア「ORiN(オライン)」をご存じだろうか。なぜ今ORiNが注目を集めているのか。誕生の背景や活用シーン、技術の概要などを紹介する。
つながる――。それは現代社会において、当たり前の環境となっている。パソコンや携帯電話端末、家電製品などつながる領域は増すばかりだ。この「つなげよう」という流れは工場(FA機器)においても広がりを見せている。新たに「つながる工場」を実現することで、従来では考えられなかった抜本的な生産効率を実現できるようになるからだ。
しかし、それぞれの機器やシステムの壁が高くサイロ状態に陥っている工場(FA機器)で「つながる」ことは、実は容易なことではない。その壁を突き破る“カギ”として今注目を集めているのが「ORiN(オライン)」だ。本稿では、ORiNが注目を集めるようになった背景や、その技術的な内容、活用シーンなどを紹介する。
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今、工場の機器やシステムは「つながる」方向で動き始めている。工場において、さまざまな製品をタイムリーに顧客へ提供するためには、生産設備の稼働率や品質の向上を図り、多種・多世代・量変動などに対応できる設備作りが必要となる。それを実現する1つの手段として、パソコンを主体とした監視システムを構築することがある。それによって、生産ラインの機器内に収められた情報(動作状況データ)を収集・分析でき、迅速な改善やリアルタイムで適切な処置を実施することが可能となるからだ。
しかし、生産ラインにはロボットやPLC(Programmable Logic Controller)をはじめとした、さまざまなベンダーによる多様なデバイスが混在しており、上位系のアプリケーションを開発する場合、情報を取得したいデバイスに対し「一品物」の通信インタフェースの開発から始めなければならない。
そのため、開発工数やメンテナンス費用の増大、そしてシステム構成が複雑になるなどの問題に悩まされることになる。これらの背景から、多様なデバイスの情報を効率よく収集するだけでなく、設備制御も可能とする統一的なFA機器用標準通信インタフェースが求められるようになった。これがORiN開発のきっかけだ。
ORiNとはOpen Resource interface for the Networkの略で、ORiN協議会により制定された工場情報システムのための標準ミドルウェア仕様である。当初、ORiNはロボットの標準プラットフォームとして開発されたため、ORiNの『R』はRobotの『R』を示していた。
しかしながら、ORiNのアーキテクチャはロボットのみならず、その他のFA機器、データベース、ローカルファイルなど、幅広いリソースを扱うことができ、FA全体に効果があるということから、今ではResourceの『R』を示している。
現在、「ORiN2 SDK」として実用化され、パソコンのアプリケーションソフトウェアから、異なるメーカーのロボット、PLC、NC工作機械などの制御装置の情報を、共通化された方法でアクセスすることが可能となっている。
ORiNを活用することで、メーカー固有の制御装置へのアクセス方法に合わせることなく、統一的なアクセスを実現できる。また、パソコンの汎用言語(C#,C++,Visual Basic,LabVIEW,Javaなど)で開発できることから、パソコンから各種FA機器のコントローラーを制御したり、情報収集したりすることが可能となり、ソフトウェア開発の工数削減やソフトウェアの再利用性、さらに保守性の向上が期待できる。
ORiNの開発プロジェクトは、1999年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の3ヵ年プロジェクトとして、日本ロボット工業会が主体となり進められた。国内主要ロボットメーカーも参加し、1999年、2001年の国際ロボット展における実証試験を経て実用性を高めてきた。
そして2001年度に、ORiN Ver1.0仕様を制定するとともに、Ver1.0仕様に準拠したORiNソフトウェアの開発を完了。2002年度にORiNの普及やニーズに対応した改良を目的にORiN協議会が設立された。
2005年度にはORiN Ver2.0仕様が完成し、2006年度にORiN2 SDKとしてデンソーが商品化、現在までに約1500ライセンス(組み込み製品:約9000台)出荷されている。
また、2011年度にはORiN Ver2.0仕様の一部がISO20242-4としてIS発行され、国際標準規格と認められた。
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