大地震の発生した街で、ロボットがガレキを押しのけ走路を確保しつつ、要救助者を救助する――。2014年8月に開催された「inrevium杯 第14回レスキューロボットコンテスト」の大会概要と結果をお届けする。
大地震が発生した。
被災地の上空を飛ぶヘリコプターからの情報で、現場に複数の人が取り残されていることが判明した。詳細な状況は行ってみなければ分からない。しかし、救助者の二次災害を避けるため、被災地で救助活動を行えるのは遠隔操作のロボットだけだ。
チーム内であわただしくレスキュープランを組み立て、「レスキュー活動開始!!」の 指令が下るとともに、ロボットが隊列を組み震災現場に残された要救助者の元へ向う……。
これは、アニメや映画の話ではなく、近未来の話でもない。2014年8月9日に神戸で開催された「inrevium杯 第14回レスキューロボットコンテスト」の競技風景だ。今大会には24チームの応募があり、同年6月に神戸と東京で開催された予選で選出された14チームが、8月の本選に挑んだ。
レスキューロボットコンテスト(以下、レスコン)は、1995年の阪神・淡路大震災を契機としてスタートしたロボットコンテストである。震災で甚大な被害を目の当たりにした関西のロボット研究者たちが中心となり、ロボット工学と防災工学を融合した「レスキューロボット工学」を新たな学問として立ち上げた。
震災発生時に役立つレスキューロボットを研究開発するには長い時間がかかり、若手研究者、技術者の育成は欠かせない。そこで学生が興味を持ち積極的に参加するコンテンツとして、このレスコンが2000年より毎年夏に神戸で開催されている。2013年からは東京予選も開催されるようになり、関東方面の参加チームも増えていくと期待されている。
レスコンのミッションは、被災地に残されている要救助者を遠隔操縦ロボットで救助し、安全なスペースへ搬送することだ。競技は実験フィールド内で行われる。6分の1サイズの市街地模型フィールドには、公道、私有地、高台、突起を設けたプレートなどがある。ガレキを私有地に押し込んだり、ロボットが要救助者のいない私有地に入り込むと減点となる。なお、ロボットの台数、重量などに制限はない。
要救助者役を務めるのは体内にセンサーを搭載した人形(愛称:ダミヤン)だ。ガレキの下や崩れた家屋内で、3体のダミヤンが救助を待っている。ダミヤンのボディはスポンジ製で柔らかい。圧力センサーや加速度センサーを内蔵しており、手荒な扱いを受けるとその信号を“痛み"として、フィールド外のコンピュータへ電波で送信する。高性能ロボットなのだ。
ダミヤンの身長は20〜30cm、体重もそれぞれ違う。目のLEDの点滅パターン、音声の周波数、胸のマーカーも個別に割り当てられている。1体1体に個性があるのだ。レスキューロボットは、ダミヤンを搬送するまえに個体識別をして、オペレーションルームに情報を送る。ダミヤンを搬送したら、すぐに救急センターに送る手はずを整えるためだ。
レスキュー活動をするにあたりチームに事前に与えられる情報は、フィールド上空を飛ぶヘリコプター(を模したカメラ)から送られている断片的な映像だけだ。その情報を元に、ダミヤンの位置を把握し救助方針を立て、レスキュー活動を開始する。
オペレーターが遠隔操作するロボットで、路上のガレキを取り除き、素早くダミヤンの元へ駆け付け、優しく救助して安全な場所へ運ぶ。このときには、スピードだけではなく優しさも重要となる。ダミヤンは体内センサーで痛みを感知するため、手荒な扱いをするとフィジカルポイントが減少してしまうのだ。
競技は2チームが同時に実験フィールド上で救助活動を行い、12分の制限時間内に3体のダミヤンを安全なスペースへ搬送しなくてはならない。しかし、得点やスピードを競うわけではない。レスコンは、あくまでもレスキューに関する社会的理解を深める手段の1つという位置付けだ。公式サイトにも原則として、下記のように明記されている。
・原則:レスコンの背後には、常に現実のレスキュー活動が控えています
他チームと勝敗を競うのではなく、あらゆる状況下においてチームのベストを探求する競技であり、技術的な成果を社会へ還元することや新しい研究テーマ、製品アイデアの発掘を重視している。競技形式をとっているのは、互いの技術やアイデアを切磋琢磨するためだという。詳しい競技内容・ルールについては、レスキューロボットコンテストの公式Webサイト(競技会本選 競技について)を参照してほしい。
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