このようにしてパレート最適解を求めることはできたが、目的関数が増えるにつれて、解集合を読み解くのは大変になる。図7のように、目的関数が2つであれば2次元のグラフ、3つであれば3次元のグラフで表せるが、4つ以上になると可視化、つまり解の分布の直感的な把握ができなくなってしまうからだ。そこで大林氏らが適用した新たな技術が、データマイニング手法の1つである自己組織化マップ(SOM:self-organizing map)である。
SOMは脳の神経細胞同士のつながりをコンピュータ上で再現したモデルだ。脳の神経細胞を考える際に重要なのは、各細胞の位置や細胞間の距離ではなく、それぞれのつながり方である。このモデルを応用して解を細胞に対応させ、各解の座標や距離の関係をなくして、いかに解同士が似ているかのみに着目して並べ、2次元のマップに落とし込むという。つまり多次元の情報を2次元で表現することができるようになる(図8)。
例えばMRJの概念設計で行われた「エンジンを付けた一般的な翼形態の多目的最適化」(流体および構造の連成解析)では、目的関数を3つ設定した。すなわち
である。
なお主翼の根元に生じる圧力を最小化するのは衝撃波が生じるのを防ぐためである。この場所の圧力変動が大きいと衝撃波が発生し、また機体の抵抗も大きくなってしまうからだ。これらの目的関数に対して、26個の設計変数で最適化を行った後に、とくに性能に影響する設計変数をあらためて10個選び出してデータマイニングを行った。具体的に設計変数は、翼断面が最大厚みとなる位置およびその厚さ、翼下面が最大厚みとなる位置およびその厚さ、そして前桁(主翼の中に翼幅方向に渡される骨部材)の高さの5変数、それをエンジン側と胴体側の2断面について、合計10個である(図11、図12)。
図13のobj1〜3が最適化の結果から作成した目的関数1〜3のSOMである。目的関数の値の大小を赤〜青のカラーで表している。これらを見ると、マップの右下の領域は3枚全てで青いことが分かる。これが「設計空間におけるスイートスポット」となる。また図13のdv1〜10は設計変数10個それぞれの値の大小をカラーで表したものだ。スイートスポットとなる右下の領域に注目してみると、例えば設計変数6(エンジン側の最大厚みの位置)は上げればよいと分かる。つまり最大厚みを持つ位置をなるべく後ろに持っていけば目的関数が小さくなるということだ。このような機能の可視化は設計の現場において大きな効果を発揮しているという。
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