日本の製造業の海外展開の歴史は古く、SCMの導入も進んでいる。しかし、今さらにSCMの一段の強化が求められるようになっている。なぜサプライチェーンを今さらに強める必要があるのか。カナダ Kinaxisのバイスプレジデント トレバー・マイルズ氏と、プロダクトマネジャーのアンドリュー・ベル氏に話を聞いた。
海外展開に古くから取り組む日系製造業にとって、サプライチェーンマネジメント(SCM)システムは、多くのITシステムの中でも比較的なじみの深いものだ。生産拠点の海外展開や取引先の拡大、外部委託の拡大などもあり、SCMはグローバル展開を目指す製造業にとってはもはや当たり前のものになっている。しかし、今また“SCMをもう一段引き上げる”動きが活発化している。
なぜSCMを新たに強化する必要があるのか。また、サプライチェーンを強化することでどういうことをできるようになるのか。SCMおよびS&OPソリューションを展開するカナダ Kinaxis(以下、キナクシス) バイスプレジデント兼ソート・リーダシップのトレバー・マイルズ(Trevor Miles)氏、同プロダクトマネジャーのアンドリュー・ベル(Andrew Bell)氏に話を聞いた。
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MONOist 製造業にとってサプライチェーンの再強化が求められる状況になっていますが、その要因にはどういうことがあると考えていますか。
マイルズ氏 グローバル化が進む中、市場が拡大し、製品の幅も広がっている。サプライチェーンはさらに広がりを見せる。グローバルに点在するサプライヤーや外部委託先などを含めると、複雑性は大幅に増している。これらの複雑さが、2008年のリーマン・ショック以降の経済危機で、多くの問題点を生み出した。複雑なシステムをうまくコントロールできなかったためだ。
生産管理には、よりビジビリティ(可視性)とアジリティ(俊敏性)が求められるようになってきている。ERP(Enterprise Resource Planning)はトランザクションを管理し、現状を確認するには非常に便利だが、将来について見通すには不向きだ。現在の製造業にとって重要なのは、先を見通しそれに対応するプランニングだ。ERPでもプランニングの仕組みは提供するケースがあるが、現状では十分な機能を備えているとはいえない。ERPは連携はあるが基本的にはさまざまなシステムの複合体であり、プランニング専門でシングルソリューションが可能なシステムが必要だ。
例えば、大災害があった時にさまざまな判断を素早く下すためのウォールーム(戦略的決定をする部屋)のような、あらゆる情報が判断可能な状況で集まる仕組みがSCMの理想的な姿だ。
サプライチェーンはチームスポーツのようなものだ。さまざまなメンバーが1つのチームとして動けるようにならなければ、勝ち目はない。社内のリソースや外部委託先、サプライヤーなどが1つのチームとして動けるようにしなければならない。そのためには今まで分散していた機能を1つに統合していくことが重要になる。
MONOist 具体的にはどういう要素が重要だと考えていますか。
マイルズ氏 重要になるのはシナリオプランニングだ。製造業を取り巻く環境において、事業運営に関連するものは、ほとんどがトレードオフの関係になっている。これらの関係を読み解き、判断を下すには、それぞれのシナリオを用意しておくことが必要になる。「どのような時にどういう状況が発生しどのようになるだろう」というシナリオを描き、必要なときにそのシナリオを選択するという仕組みだ。
例えば、製造部門においては「在庫を削減しなければいけない」ということがミッションかもしれないが、カスタマーサポート部門では「アフターサービスの質を向上し顧客満足度を高める」ということがミッションになるだろう。これらはある部分では、相反するもので、企業としての状況や周辺環境などに応じて、どのようにリソースを配分していくか判断していかなければならない。
企業を取り巻く情報を総合的に集め、指標に応じて「こうなった場合にこのようにする」というシナリオを用意しておく。そして状況の変化が起こったときにシナリオプランを選択するだけでいいようにするということが素早い意思決定には重要だ。
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