薄型軽量のノートPCやタブレット端末、スマートフォンなど、従来なかった仕様の機器開発においてCAEの活用は必須だ。
富士通九州システムズは2013年10月23日、構造解析ソフトウェア「TSV」(開発元はテクノスター)のユーザー事例を紹介するセミナーを開催した。事例講演として登壇した富士通 パーソナルビジネス本部 第一クライアントプロダクト事業部 プロセス革新技術部の中根智史氏は、富士通のPC開発部隊が実施する品質評価や、解析(CAE)の活用について講演した。解析の事例として、落下衝撃解析の例を挙げ、どのように解析精度向上や工数削減に取り組んでいるかを紹介した。
「富士通のビジネスは主に、ICTを活用したビジネスソリューションを提供する『テクノロジーソリューション』と呼ばれる領域と、高品質のプロダクトを開発し展開する『ユビキタスソリューション』と呼ばれる領域で構成されている」と、中根氏は述べた。
中根氏が所属するパーソナルビジネス本部が携わっているPCや、携帯電話のビジネスである「ユビキタスソリューション」の売り上げは、全体で約24%の売り上げを占めるという。
同社 パーソナルビジネス本部は、主にノートPCやデスクトップPCを開発する部署である。同本部の拠点は川崎市。開発している機種は、現在、多様化しているという。薄型軽量のUltrabookをはじめとするノートPC「LIFEBOOK」、女性をターゲットとしたPC「Floral Kiss」、デスクトップPC「ESPRIMO」、ワークステーション「CELSIUS」、タブレット端末「ARROWS Tab」などが最近の代表的な製品だ。「最近は、Windows 8の発売とともに、タブレット端末の市場が拡大している」(中根氏)。
同氏は、富士通PCの特色として、“国内で開発し国内の工場で組み立てる”、同社の国内一貫体制を挙げた。ノートPCは島根県出雲市の島根富士通で、デスクトップPCは福島県伊達市の富士通アイソテックで組み立てている。それぞれで生産された製品は、「出雲モデル」「伊達モデル」と呼んでいる。そうした体制で、「Made in Japan」の品質の高さ、技術の高さ、きめ細やかさをアピールしている。
中根氏の属するプロセス革新技術部は、「開発プロセスの最適化」をミッションとして掲げている。開発の上流から解析ツールやICT技術をフル活用し、試作の繰返しなど手間やコストの掛かる作業を極限まで低減する「モノを作らないモノづくり」に取り組んでいる。同部は、主に「デジタルデータによる設計検証」「製造しやすい設計の追求」の2つのプロジェクトで構成されている。
デジタルデータによる設計検証のプロジェクトでは、主に電気系解析、構造系解析を実施している。電気系の解析では、静電気に対する耐力(ESD)や放射ノイズのレベル(EMI)を検証する解析をしている。構造解析は、PCの使用シーンで、「圧迫されたときに壊れないか」「何年も繰り返し稼働しているうちに壊れないか」といった問題を想定した解析をしている。また先述のとおり、同社製品は多様化しており、薄型軽量機種、タブレット端末といった、従来はなかった形状をした新機種の解析も増えているという。
製造しやすい設計の追求のプロジェクトでは、量産性の事前検証を実施している。設計された装置の組み立て性を検証している。そこでは、同社のデジタル生産準備システム「VPS(Virtual Product Simulator)」を用いて、バーチャル環境での組み立て状況を解析している。また最近は、開発プロセスの中に3Dプリンタを活用した新しい開発プロセスも構築しているという。
同社のPCも当然、商品企画、設計(基本設計・詳細設計)、試作評価、生産準備、生産といった一連のプロセスを踏む。そのうちの試作評価では、社内独自の基準に基づき、試作機を製作して評価を実施している。
同社PCにおける信頼性評価試験には、以下のような項目がある。
上記のような耐久性に関する評価の他、感性に関する評価も実施している。ボタンの押下特性試験は、ボタン押下時の快適なクリック感や重さを評価する。操作音評価試験では、文字通り「操作したときに操作音がうるさくないか」どうか、つまり静かな環境でもうるさく感じないかを評価する。
実機を使った評価では、試作段階で問題が生じると、設計変更や対策を講じ、さらにそれを反映した実機試作を実施しなければならない。このような手戻りが発生してしまうと、時間やコストはどんどん膨らんでいくばかりだ。効率のよい開発を進める上では、そのような手戻りをいかに削減するかということが重要となる。そこで、同社では試作、評価段階で解析を積極的に活用している。解析では、ESD/EMI解析、構造解析、熱解析などを実施している。
構造関連の全評価項目に対して3割で、解析を実施しているという。例えば、表示部圧迫や表示部開閉、底面圧迫(筐体圧迫時の基板のひずみなどを見る)、キーボード解析、クリックパッド解析、ボタン強度などについて、構造解析で検証している。
「最近では、このような品質評価に沿った解析だけではなく、新しい構造や、薄型化してシンプルに考えなければいけない形状に対して、それが妥当かどうかの検証も実施している。フィールドで発生してしまった障害について、原因を調査し、その対策を考えるための検証も実施している」と中根氏は言う。
富士通では、統合設計解析環境の強化を進めてきた。その一環として、同社のモノづくり支援のためのクラウド環境「エンジニアクラウド(Eクラウド)」によって、ジョブ制御、ソフトウェアの認証・ライセンス管理、データ管理を一元化している。また計算リソースについては、計算サーバ(PCクラスタ)の「PRIMERGY」を共有して、ライセンス処理から、計算、ジョブ投入までを一元化し、効率のよい計算環境を実現している。
「最近、PCのコモディティがますます加速している。(PCを開発する)各社では、性能の面での差別化が年々難しくなっており、どんどん価格が下がっている。従来通りの売り方をしていると、なかなか利益が出しづらくなっている。従来のPCだけではなく、タブレット端末、スマートフォンといった新しい情報端末も氾濫している」(中根氏)。
そういった状況下におけるPC開発では、開発費用の低減、開発リードタイムの短縮を図り、開発の効率化を図ることが求められる。また、新しいカテゴリーや新しい技術を積極的に取り入れて、チャレンジングな商品を開発していくことが求められている。それに伴い、品質の低下があってはならない。そのような条件を満たすためにも、「今後は解析がより一層重要になってくる」(中根氏)と同社では考えているという。
現在の同社では、詳細設計である程度、形が出来上がった段階で、「その設計が妥当かどうか」をフィードバックする解析が主だ。しかし今後は、解析をよりプロセスの上流である構想設計から実施していきたいという。また「設計検証や評価試験を、実機を作らずにコンピュータの解析だけで実施する」という「デジタルDVT」の実現を最終的には目指すという。このように解析の活用領域を拡大することで、工数削減と精度向上を実現し、開発リードタイムの短縮を実現したいとのことだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.