日立オートモーティブがバーチャルHILSの運用を開始、試験時間を400分の1に短縮車載ソフトウェア

日立オートモーティブシステムズは、実ECU(電子制御ユニット)を使わずに仮想環境で車載ソフトウェアの試験を行えるバーチャルHILS(Hardware in the Loop Simulation)の運用を始めた。HILSと比べて試験時間を400分の1に短縮できた事例もあるという。

» 2013年10月17日 16時20分 公開
[朴尚洙,MONOist]
日立オートモーティブシステムズの宮崎義弘氏

 日立オートモーティブシステムズは、実ECU(電子制御ユニット)を使わずに仮想環境で車載ソフトウェアの試験を行えるバーチャルHILS(Hardware in the Loop Simulation)の運用を始めた。同社 技術開発本部の主管技師長で電子プラットフォーム技術統括を務める宮崎義弘氏が、図研のユーザーイベント「Zuken Innovation World 2013」(2013年10月10〜11日)の講演で明らかにした。

 車載システムの中核を担うECUは、実車に搭載しての最終試験の前に、プラントモデルと呼ばれる仮想環境と接続して動作試験を繰り返すHILSを行うことが多い。ただしHILSは、プラントモデルを動作させるハードウェアが高価であることから多くの台数を導入するのが難しく、全ての部署で活用しようとすると利用時間が限られてしまう。

左の写真は日立オートモーティブシステムズの宮崎義弘氏。右の図は、HILSとバーチャルHILSの比較である(クリックで拡大) 出典:日立オートモーティブシステムズ

 一方、バーチャルHILSは、ECUに搭載するマイコンのモデル上で車載ソフトウェアを動作させるバーチャルECUとプラントモデルを使って試験を行う。実際にハードウェアを製作せずに、HILSとほぼ同レベルのソフトウェア検証が行えるだけでなく、クラウド上で並列実行できるので試験時間の大幅な短縮化が図れるというメリットもある。

バーチャルHILSをクラウド上で実行して試験時間を短縮 バーチャルHILSをクラウド上で実行して試験時間を短縮(クリックで拡大) 出典:日立オートモーティブシステムズ

 日立オートモーティブシステムズは、バーチャルHILSに必要なSILS(Software in the Loop Simulation)ツールと、日立アドバンストデジタルのクラウド型検証プラットフォーム「V2Cloud」を組み合わせて、ECUソフトウェアの回帰テストを自動で行うシステムを構築した。

 宮崎氏は、「HILSの場合、テスト内容を変更するたびに、ECUと計測ハードウェアの接続変更を行う必要がある。実ECUを使って試験を行うため、プラントモデルとの同期が取れていない部分の計測結果はオペレータが確認しなければならない。バーチャルHILSであれば、接続変更の作業も不要で、ECUとプラントモデルの同期も確実に取れるので、テストシナリオを入力すれば、後の作業を完全に自動化できる。そして、複数のテストシナリオをクラウド上で並列実行できるので、テスト時間の大幅な短縮にもつなげられる」と説明する。HILSの場合に400時間かかる試験が、バーチャルHILSでは1時間で終わった事例もあるという。

ISO 26262対応で必要な故障率の定量評価も

 この他、自動車向け機能安全規格であるISO 26262に準拠したハードウェア開発で必要になる、故障率を定量評価するための仕組みを紹介した。

 車載システムをISO 26262に準拠させる場合、ハードウェアの故障率をASILで示される安全レベルに対応した値をクリアしている必要がある。この故障率は、使用する半導体や電子部品といった素子単体の故障率などから算出するが、オプション追加による仕様変更や仕向け地ごとのバリエーションなどに合わせて手計算を行うと膨大な労力が必要になる。

車載ハードウェアの故障率を定量評価するための仕組み 車載ハードウェアの故障率を定量評価するための仕組み(クリックで拡大) 出典:日立オートモーティブシステムズ

 日立オートモーティブシステムズでは、5つのツールを連携させて、車載ハードウェアの故障率を自動的に導出するシステムを構築した。まず、図研の電気CAD「CR-5000 System Designer」のプリント基板設計データから、内製ツールを使って回路データを抽出。次に、ウェーブフロントとIsographの部品故障率計算ツールで故障率データベースを作成してから、ガイア・システム・ソリューションのISO 26262対応故障検出ツール「GAIA-QEST」により、車載ハードウェアの故障率や、故障率のメトリクス表を出力する。

 宮崎氏は、「ISO 26262にいち早く対応するため、既存のツールを組み合わせて対応した。しかし、今後は開発プロセスの効率化に向けて、図研の『CR-8000 ISO 26262 Verifier』のように、電気CADによるプリント基板設計と故障率の定量評価を一括して行えるようなツールが必要になるだろう」と述べている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.