実は、12V エネルギー回生システムに先駆けて、鉛バッテリーと他の蓄電デバイスを併用するアイドルストップシステムが既に量産車に搭載されている。
1つは、スズキが2012年9月に発売した「ワゴンR」に搭載されている「ENE-CHARGE」である(関連記事1)。東芝のリチウムイオン電池「SCiB」を併用して、減速エネルギーを回生して得た電力の充電を効率よく行えるようにしたことが特徴だ。ENE-CHARGEなどの搭載により、ワゴンRは28.8km/l(リットル)という良好な燃費を達成している。
もう1つは、マツダが2012年11月に発売した「アテンザ」に搭載されている「i-ELOOP」だ(関連記事2)。i-ELOOPは、充放電速度で優れる電気二重層キャパシタを用いている。「減速時に7〜10秒充電すると電気二重層キャパシタが満充電になり、その電力を使って、電装品を60〜80秒の間動作させられる」(マツダ)のだ。
では、既に量産車に採用されているリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタと比べて、現時点では量産採用されていないニッケル水素電池を用いた12V エネルギー回生システムの優位性とは何なのか。
川瀬氏が指摘するのが、「鉛バッテリーとの幅広いSOC(State of Charge:充電状態)範囲での電圧適合性」である。12V エネルギー回生システムは、出力電圧が1.2Vのニッケル水素電池を10個直列で接続して、鉛バッテリーと同じ12Vの出力電圧を実現している。これは、出力電圧が2.4VのSCiBの電池セルを5個直列で接続しているENE-CHARGEと考え方は同じだ。しかし、「実際には、出力電圧を12Vにするだけでなく、充電時と放電時、ともに幅広いSOC範囲で鉛バッテリーと同じような電圧カーブを持っていること、つまり電圧適合性が高いことが、鉛バッテリーと併用する上で最も適した蓄電デバイスの条件となる。実際に、電圧カーブを計測したところ、ニッケル水素電池が最適だという結果が得られた」(川瀬氏)という。
一方、i-ELOOPは、電気二重層キャパシタを10個直列で接続しているが出力電圧は12Vにならない。このため、12V出力に電圧を変換するためのDC-DCコンバータも搭載している。川瀬氏は、「このDC-DCコンバータは数千〜1万円弱というコストが掛かる。ニッケル水素電池を用いる12V エネルギー回生システムでは不要だ」と強調する。
なお、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタのどれであっても、鉛バッテリーを代替することは難しいようだ。「低温時のクランキング(エンジンスタート)と、エンジンを切った後も電力を消費するスマートエントリーシステムをはじめとする車載機器の暗電流に対応するために、鉛バッテリーは必須とされている」(パナソニック)という。
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