残念ながら電装系トラブルでエンデュランスリタイアの京都大学「KART」。しかし2012年は、前回紹介した上智大学といい、出場常連校のエンデュランスのリタイヤが目立ったなぁ……。その話は置いておいて……。
京都大学の美しい車体の仕上がりに山下氏も筆者もクギヅケでした。プロジェクトリーダーの小川貴臣さん(以下O)に話をお伺いしました。
SS うわっ! これはまた美しくかつコンパクトなマシンだね! エンジンはヤマハの「WR」のやつかな?
O はい、「WR450」のDOHC単気筒エンジンを478ccまでボアアップしています。
SS パワートレイン部分のパッケージングが素晴らしい! よく、このスペースに収めたよね〜! 二輪車がそのまま四輪になったみたい。デザインも一昔前のF1マシンみたいで格好イイね!(ちなみに、山下さんも同じ感想をお持ちでした)。
O そうおっしゃっていただけるとうれしいです。まさにそのイメージを狙っていましたので。
SS フレームはアルミパイプだね。
O フレームについては担当に語ってもらいますね。
フレーム担当さん(以下F) 基本はバルクヘッド構造です。バルクヘッドを堅牢に作り、足回りはバルクヘッドに直接取り付けることで局部剛性を上げるという考えです。バルクヘッド間を目の字断面のアルミ押出し材や、アルミ切削のリーンフォースメントでつなぎフレームを構成すると、走行時のフレームの変形が単純……、というか素直になるんです。
F アルミを使ったバルクヘッド構造というより、バルクヘッドにするためにはアルミしかないのです。もし鉄を切削してリーンフォースメントを作るとしたら重量と加工性の両面で厳しいです。アルミ製のファイアウォールにも注目してください。エンジン部分とコクピットは完全に隔離されているので安全性も高いです。
――ここで精密加工のプロフェショナルの山下氏(YY)が再度登場!
YY 前後のアップライトはワイヤーカットで作ってるんだ。
F はい、学校に放電加工機があるので自作しています。マシニング加工は自分たちでは難しいので。
SS フレームの構造解析は当然やっていますよね?
F はい。SolidWorksシミュレーションを使っていますが、フレーム全体だと難しいので、バルクヘッドの周りにある程度のフレーム部分を加えて部分的な解析をしています。フレームの変形の実測は難しいので、シミュレーションソフトは役立ちます。
SS 外観が美しい車は絶対に性能が良い! 来年も頑張ってくださいね!
この取材に同行していたMONOistの編集記者さんは配線のまとめ方の美しさに感動していました(さすが視点が違うなぁ、笑)。
担当編集より:自分は結構がさつな性分で、PCの配線もちらかり放題です。つい目に付いたのは、私の尊敬の念からではと思います。
エンデュランスは残念ながら完走できませんでしたが、プレゼンテーションやデザインなどの静的審査は全て上位、動的審査でもスキッドパッドで3位、オートクロスで8位、総合では23位。このマシンがいかに高性能か、結果で示していますね。アルミフレームとクラシカルなカウリングのマシンで、2013年度大会の上位入賞の期待が非常に高いチームです。
さて、今回最後に紹介するチームは、毎度、美しい塗装で目を引く工学院大学です。「工学院レーシングチーム」のエクステリア担当 村上将太さん(以下M)にお話をお聞きしました。
SS 相変わらず塗装が美しいですねぇ。
M ありがとうございます!
SS カウルの材質はカーボン?
M はい、校内にある炉でドライカーボンを焼きました。
SS 塗装の工程はかなり手を掛けているよね?
M まずはサーフェイサーを吹きます。カーボンパネルには必ず巣穴があるのでそれを丹念にパテで埋めて下地を整えます。その後、3回コートします。
SS 3回もコートするのか! でなきゃ、この深いツヤは出ないよね〜。カウルデザインの特徴を教えてください。
M ドライバー前のバルクヘッドを利用してなだらかな段差を設け、空気がカウルから剥離しないようにデザインしました。またアンダーカウルの途中にエア・インテークを設け、そのままディフューザーへスムースに空気を流しダウンフォースを得るようにしているつもりですが。この辺りはまだ研究中です。カウルデザインのヒントは最新型のF1カーです。やはりF1は憧れですから。
SS エンジンは何を使っているのかな?
M ホンダの「CBR600」のものです。ミッションもそのまま流用しています。
SS あ、サスペンション、小さいねぇ。これは?
M 自転車(MTB)用です。前後で4つ使っていますが、1本当たりが受け持つ荷重は「自転車+乗る人」と同じぐらいです。
SS 今年苦労した点はありますか?
M 実は大会開催前の8月31日に練習走行でスピンしてアンダーカウルのリアセクションを壊しちゃいまして、もう一度カーボンプレートを成形して、ぎりぎり間に合ったんです。アンダーカウルはメンテナンス性を考えて前後別体にしておいたので助かりました。
SS そうか、一体成型は良さそうに見えるけど、リスクから考えると「別体の良さ」もあるってことだよね。今年の成績はどうでしたか?
M 全ての審査を終えられました。ゼッケンナンバーよりは上に行けるといいのですけどね!
SS ありがとうございました!
工学院大学はエンデュランスで17位。他の審査についても堅実な成績を収め、総合20位となり、2011年大会の32位よりぐっと順位を上げました。おめでとうございます!
連載第2回は個性豊かな4チームを取り上げました。次回は最終回です。第10回大会の優勝、準優勝校のインタビューを紹介します。お楽しみに!
関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表
専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなどの大規模アセンブリを完全一人完結組み立てを行い、品質/生産性/作業者のモチベーション向上を実現した。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、実務改善に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。
現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡大学、静岡理工科大学、早稲田大学大学院、豊橋技術科学大学で講師として教鞭をにぎる。
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