中小企業が、目立って集まって、国を動かす!中小企業経営者・技術者たちの熱い夏(2/3 ページ)

» 2012年09月21日 11時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 いくら“企業ブログ”といえども、自社イメージや直接的効果のことを考え過ぎるあまり、業務内容や営業PRなど宣伝じみた内容だけを淡々と伝えるのみであれば、多くの人に投稿を読んでもらうことは非常に難しくなる。それでは、「目立ってナンボ」戦略的には不利だ。

 逆に、ブログで業務とは遠いことばかり伝え過ぎれば、一体何をやっている組織なのかが見えづらくなる。「ミナログ」も縛りは緩いながらも、本業にある程度通じるテーマ選定が意識されている。また同社のブログは外部サービスを利用しているが、minaro.com内のページと同じ体裁(テンプレート)にして、ミナロが「製造業」「木型製作所」であることがいつでも目に入るようになっている。

 ミナロでは、ブログは主に社長や従業員の人となりや思い、雰囲気などを伝えて顧客の心をつかみ、Webサイトは営業や業務そのものについて具体的に説明する、といった感じで役割を分担しているようだ。そういう構成とすることで、「ミナロという企業がどういう存在なのか」を立体的に生き生きと伝えている。

 その戦略が功を奏したことは、先述した顧客数の大幅増加からうかがえるとおりだ。

2ちゃんねるの投稿も、受注のきっかけに

 ある日、2ちゃんねるの“あるスレ”で木型についての話題が持ち上がり、そこでミナロの名前が投稿者によって挙げられたことがあった。投稿者が木型を製作してくれるメーカーを探していたところ、ほかの投稿者がミナロを紹介したという流れだった。

 スレに名前が出たことで、同社Webサイトやブログへのトラフィックが増えても、荒らされることもなく至って平和だったという。トラブルどころか、むしろ受注へとつながって、同社としてはポジティブな効果を得られた。

 2ちゃんねるは、何かとネガティブな印象を抱かれがちであるが、緑川氏もそれは否定しないという。ただし、「そこに書いてある情報は、間違っていることや批判も多いですが、正しいことも多く、有効な場合もあります」と緑川氏は言う。特にトラブルへとつながらず、むしろ受注という成果へとつながった理由としては、ミナロが実直かつ堅実に仕事に取り組み続け、顧客の信頼を着実に積み重ねてきたこともあるだろう。

漫画家 たなかじゅん先生との出合い

 ブログでの積極的な発信は、通常の業務をしているだけでは出会えない人や活動への縁を作る。それが、外部企業や組織での講演に加え、新聞・雑誌での執筆依頼へもつながる。さらに、その活動や記事が注目を集めるきっかけとなる。――「目立ってナンボ」のポジティブな連鎖だ。

 緑川氏は、漫画家のたなかじゅん氏との親交が深いことで知られる。たなかじゅん氏は、鉄工所に勤める女性・阪本ナツコの奮闘を描いた「ナッちゃん」(集英社)の作者。同氏自らも工業大学出身で、モノづくり技術にも造詣が深い。そして緑川氏は、「ナッちゃん」の大ファン。そんな両氏の出合いも、ブログがきっかけだった。

 「ナッちゃん」の単行本のお知らせや感想を頻繁につづっていた緑川氏のブログに、たなか氏がお礼コメントを寄せたことから、親交が始まった。

「ミナログ」コメント欄での実際のやりとり(ナッちゃん17巻/「ミナログ」2006年1月7日

 「遠くから応援するだけだった漫画家と、一緒に飲みに行くほどの友人になれた」ことも、ブログの時代ならではだ。ミナロがブログで活発に情報発信していたからこそかなえられたことでもある。

 後に、いまやミナロ名物ともなった「等身大ナッちゃん」も製作。こちらは、同社の営業時間外を割いて作られた。ちなみに眼は、たなか氏によって描かれた。

等身大ナッちゃん(C)たなかじゅん/集英社 :身長は、漫画の設定である156cmに合わせた。

 このナッちゃんフィギュア製作、実は、ミナロの経営方針の大事な部分をよく表している。

たまには、モノづくりを楽しもう

 ミナロでは、閑暇期や営業時間外を使って取り組む、「趣味系モノづくり」を社内で推奨している。先述のナッちゃんフィギュアもその1つだ。

 顧客から請け負う仕事は、指定された納期を守るため、ときに土日や定時時間外も費やして対応する。町工場で働く職人たちは、とにかく「顧客の図面通り」に製作する。自身の創造力が不要な“作業”に追われながら、生活時間のほとんどを過ごす。楽しいことよりも、つらいことの方がやはり多い。

 そもそも「作ることが大好き、楽しい」と思って、この世界に入ってきたはずの人たちのモチベーションを高め、その真価を発揮させるには、「たまには、自分の作りたい物、思い描く物を、その一部でもいいから形にするべきだ」と緑川氏は考えた。

 同社ではこれまで、デザイナーの考えた個性的なバイクを再現したオブジェ、複数パーツに分けて間接も作り込んだガンダムの模型、レッドブルカートレースの車両などを製作してきた。一気に作り上げるのではなく、端材を利用しながら、暇な時間を使って少しずつ仕上げていく。このような活動がダイレクトに換金されるわけではないが、同社にとって大きなメリットがある。

 「これを作っているときは、作業者の目の色が変わるんです」(緑川氏)。

 ナッちゃんフィギュアや芸術作品のバイクのような有機的で複雑な形状は、詳細に形状を再現しようとすると、3次元データでの表現が難しく、ごく標準的なCAM技術では加工が難しいという。ところが、それを「どうしても作り上げたい」職人たちは、操作マニュアルに書かれていないような“裏技”を自発的に編み出す。それが、職人たちの技術力向上へとつながって、ひいては受注する仕事の幅も広がるという。

 また機密性の高い仕事が多いミナロは、顧客事例を一般公開することが難しい。このような取り組みで生まれた製品は、話題作りとともに、自社の技術サンプルにもなって一石二鳥ともいえる。

自社製品も、どんどんやろう

 町工場には、モノを作る道具や設備がいろいろある。故に、自社製品を作る上で恵まれた環境であるはずだと緑川氏は言う。それを活用して、どんどん商品を生み出して、そのうちの1つでもヒット商品が出ればよい。

ミナロによる加工事例
加工サンプル

 「『本気で自社製品を作ろう』と思ったら、形だけなら簡単に作れるんですね。そこには『お金はどうすんだ』『時間はどうすんだ』っていう問題もあるでしょうけど。ファブレス(工場を持たない企業)の人が同じことをやろうと思ったらば、その何十倍、何百倍とお金が掛かるんです」(緑川氏)。

 また、自社製品開発は従業員のモチベーションを高めることにもつながる。通常の下請け業務では味わえない喜びが味わえるからだ。自社製品なら顧客(消費者)の反応を直接うかがうことができ、それが従業員をヤル気にさせる。

全日本製造業コマ大戦とは、何なのか

 緑川氏がリーダーとなって活動する異業種集団「心技隊」が一番力を入れているイベントが「全日本製造業コマ大戦」だ。

電機メーカー タカノの中原 健司氏は、十八番の品質工学を生かしたコマ設計で挑む
コマ大戦 信州場所の優勝は、茨城県水戸市からやってきた大塚製作所。歓喜する根岸忠宏氏
惜しくも2位だったコガネイチーム! TRIZやタグチメソッドをバリバリ使った設計も、強さの秘密

【勝敗】

  • 土俵の外に出るか、先に止まってしまったら負けとし、2連勝した時点で試合終了(土俵との接地面以外の部分が動いていても、接地面が止まっていたら負け)
  • 勝者は敗者のコマをもらえる(それまでの戦利品を含み総取り)
  • 製作者が来場できない場合は主催者側で代理の投げ手を用意する

【優勝者への対応について】

  • 賞状は、基本的に心技隊が発行することとする
  • G1の優勝者は、持ち回りトロフィーを受け取り一年間保有できる
  • 優勝者が総取りしたコマを、必要に応じ心技隊は借り受けすることができるものとする

【コマの仕様】

  • コマの直径は、静止状態で回転軸に対しφ20mm以下(補助部品含む)

【土俵の仕様】

  • φ250mm凹 R700mmケミカルウッド製

――コマ大戦公式ページより


 2012年2月に初めてその1回目が横浜市内で開催された。大型展示会の1ブース内のイベントだったにも関わらず、非常に多くの人の注目を集めた。ローカル新聞や工業系メディア以外の、一般誌やテレビ番組までが取り上げるような反響の大きさから、全国各地から開催のオファーが相次ぎ、実際に、幾つかの地方大会の開催も決定している。もちろん、2013年度の全国大会も予定している。

 「皆さんが楽しんで、さらには皆さんがもうかる。コマ大戦にかかわることによって、何らかのメリットが発生するようにしていきたい」と緑川氏。

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