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» 2012年08月16日 08時30分 公開

標準化・コンソリデーション化が加速する航空・宇宙/防衛分野ウインドリバーに聞く業界動向(2/2 ページ)

[八木沢篤,@IT MONOist]
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組み込みソフトウェアベンダーとしての関わり

 繰り返しになるが、航空・宇宙/防衛分野は、あらゆる組み込みシステムの最高峰である。

 しかし、それぞれの要求レベルは非常に高いものの、言われている課題に目を向けてみると、設計・開発効率の向上、コスト削減など、他の組み込みシステムとの共通点もあり、参考・共感できる話題も多いように思う。

 そこで、組み込みソフトウェアベンダーとして、長年、航空・宇宙/防衛分野に注力するウインドリバーに話を伺った。以降では、そのインタビューの模様をお届けする。なお、今回対応してくれたのは、米Wind River 航空・宇宙/防衛 担当 シニア・ダイレクタのチップ・ダウニング氏だ。

チップ・ダウニング氏 米Wind River 航空・宇宙/防衛 担当 シニア・ダイレクタ Chip Downing(チップ・ダウニング)氏

MONOist まず、航空・宇宙/防衛分野のトレンド・課題について教えほしい。

ダウニング氏 現在、「Aerospace&Defense(航空・宇宙/防衛:以下、A&D)」分野が抱える課題は、大きく2つに分類できる。1つはビジネス環境に関するもの、もう1つは技術に関するものだ。

 まず、“ビジネス環境”に関する課題だが、昨今、A&Dに対する要件が非常にダイナミックに変動している。システムとしての能力、安全性やセキュリティに対する要求が高まる一方で、開発予算は減少傾向にある。それにもかかわらず、ライフサイクルを延長しよう(50年を想定して設計した軍用機でも、その寿命をできるだけ延ばして使用し続けよう)という声も高まっている。さらに、こうした要求の変化だけでなく、業界内での企業買収・統合が進んでいる点も最近のトレンドといえる。

 もう一方の課題、“技術”に関しては、現在、コンシューマ市場などで普及している汎用品を活用した設計・開発へとシフトしつつある。さらに、システム全体のコンソリデーション化がますます要求されており、設計・開発のしやすいツールやシステム全体の検証や検討が行いやすいツールの重要性が増している。IMAという設計思想の下、いかにシステム全体の部品点数を減らし、重量やサイズ、消費電力、そしてコストを下げるかが強く求められている。

MONOist その他に技術的なトレンドはあるか? また、Androidの活用なども出てきたと聞くが?

ダウニング氏 最近の傾向としては、CPU性能の向上による、マルチコア/マルチプラットフォーム化が進んでいる。そのため、A&Dにおいても、さまざまなOSのバリエーションや仮想化技術についての重要性が高まっている。さらに、開発期間の短縮なども強く要求されるため、生産性の高い開発ツールや、ハードウェアが未完成の段階でもソフトウェアの検証ができるシミュレーションツールなども活用されている。

ウインドリバーのソリューション ウインドリバーのソリューション(※出典:ウインドリバー) 【画像をクリックで拡大】

 また、防衛(軍事)分野ではAndroidの採用が目立ち始めている。射撃支援のツールとして銃に装着する小型端末や、通信用のデバイスとして兵士の腕に装着するタイプのものまである。他にも、軍用無線電話のUI部分にAndroidが活用されていると聞く。

Androidの活用例 Androidの活用例(※出典:ウインドリバー) 【画像をクリックで拡大】

MONOist 先ほど、IMAへのシフトの話があったが、そのメリットを示すような具体的な事例はあるか?

ダウニング氏 ウインドリバーでは、AvionicsのOSとアプリケーションソフトウェア間の汎用的なAPIを定義した「ARINC 653」仕様に準拠したプラットフォームとして、「Wind River VxWorks 653」を提供している。

 IMAを実現するこのプラットフォーム(Wind River VxWorks 653)を利用した最もチャレンジングな事例としては、ボーイング 787 ドリームライナーの開発が挙げられる。この開発では、IMAの設計コンセプトを採用したことで、およそ100点のLRUを削減することに成功した。プロジェクトに関わったベンダー17社が個々に開発したソフトウェアを、Wind River VxWorks 653を搭載する共通プラットフォーム上に統合し、1つのシステムとして構築することができた。このプロジェクトの成功は、A&D分野において、ウインドリバーの能力が実証された代表的な出来事の1つだ。

ボーイング 787の事例について ボーイング 787の事例について(※出典:ウインドリバー) 【画像をクリックで拡大】

MONOist 旅客機などの場合、これまで安全認証の取得に莫大なコストが掛かっていたと聞く。安全認証の取得に対し、ソフトウェアベンダーとして、ウインドリバーではどのような取り組み・支援を行っているのか?

ダウニング氏 従来の連携型システムでは、「本当に安全性が高い」ということを証明するのは困難だった。なぜなら、専業メーカーが独自開発した個々のハードウェア/ソフトウェアに対し、それぞれ安全認証を取得しなければならず、そのコストも専業メーカー自身が100%負担する必要があったからだ。

 IMAを実現するためのプラットフォームであるWind River VxWorks 653は、商用の旅客機に求められる安全規格 DO-178/DO-178C レベルA認証取得用のドキュメントを完備している(DVD-ROMとして提供)。IMAであれば、1つの共通プラットフォーム上に個々の機能を統合する形でシステムを実現するため、安全認証を取得するためのコストは大幅に低減できる。

ダウニング氏 「IMAの設計思想に基づき開発することで、さまざまなベネフィットが得られる」と語るダウニング氏

MONOist 安全性やセキュリティについて、他の分野よりも強く要求されることはよく分かる。その他に、一般的な組み込み分野との大きな違いはあるか?

ダウニング氏 「安全性」「セキュリティ」の他に上げるとするならば、「機密性」だろう。これはA&Dで強く求められている。

 一般的なコンシューマ機器メーカーでも保有する知財の機密性を重要視しているが、A&Dの場合、さらに高いレベルのものが要求される。防衛(軍事)分野などをイメージしてもらえれば、その理由も容易に想像がつくだろう。この要求で非常に難しいのは、機密性の保持と標準化・オープン化のバランスだ。IMAによる設計思想が主流になりつつある中、高い機密性を追求するのは非常にチャレンジングなことだ。

 こうしたさまざまな要求に応えられるシステムを実現すべく、われわれウインドリバーは実績のある商用プラットフォームやミドルウェア、ツール、エコシステムなどで包括的に設計・開発者を支援している。それは、A&Dに限らず、自動車、コンシューマ、産業/医療、ネットワークなど全ての分野で同じことが言える。


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