これまでのポメラと大きく形状が変わった、平たい「DM100」。その機構設計も大きく変わった。その薄型・軽量設計の貴重な資料を大公開。
文房具メーカーのキングジムのデジタルメモ「ポメラ」は、初代モデル「DM10」を2008年11月10日に販売開始して以来、さまざまなバージョンが登場した。カラー違いやサイズ(スペック)違いのほか、デザイナーとのコラボモデル、「ガンダムモデル」のようなキャラクタータイアップバージョンまで登場した。
そして2011年11月25日、従来のポメラと比べると非常に見かけが異なる、平たいポメラ「DM 100」が発売された(製品概要については、以下の関連記事で)。外形寸法は幅263mm×奥行き118.5mm×厚さ24.6mm。
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平たく、そして横に広い――見かけが大きく変わったことから、その中身の機構設計も大きく変わった。今回は、製品や試作品の筐体やその内部の設計が一体どうなっているのか、実際の設計資料をのぞきながら、キングジム 商品開発部 開発二課 立石幸士(たかし)氏に設計秘話をお伺いした(記事中に出ている設計資料は、キングジムの許可を得て掲載)。
MONOistの過去記事で紹介してきたように、立石氏はメカ設計者ではなく、企画担当者。しかし、業務自体は設計マネージャーに近い。キングジムは社内にメカ設計の部署がないため、外部の設計会社とコラボレーションすることでポメラを開発してきたが、そのまとめ役が立石氏だ。
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「薄さというのは1つの大きい武器になると思った」と立石氏は言う。同氏は、自身も普段使っている折りたたみ傘から、1つの着想を得たそうだ。
最近の折りたたみ傘では、数百円で、しかも非常に小さくまとまる製品が登場している。その形状はさまざまだ。そして、とにかく小さければ邪魔にならないのか、といえば、そういうわけでもないと立石氏は言う。カバンにいれたときに、一番かさばらないと感じたのは、ペタンと薄くなるタイプの折りたたみ傘だった。この形状なら、物のすき間にすぽっと入る。一方、丸くてコロッとしたブロック状になる傘は、それがカバンの底にあるとき、ころころして、何となく収まりの悪さを感じてしまう。
歴代ポメラのサイズは文庫本ほどだったが、少々厚みがある筺体だった。「ポメラも、最近のネットブックのように薄くなったら、カバンの中でもっと収まりがよくなるのではないか」。立石氏は、そう考えた。
従来ポメラの大きな特徴といえる折りたたみ機構を撤去し、従来のポメラの厚さ(DM10は折りたたみ時で33mm)よりも薄型にすることが大事な要求仕様になったが、DM100の設計において、それが「高いハードルの1つ」となったと立石氏は言う。
面積が広くなるということは、重量的にも不利になる。ざっと見積もったところ、500gを軽くオーバーしてしまう計算となった。以下は、従来モデルの部品仕様を基に、部品重量を算出した結果だ(2011年1月時点:単に部品重量を加算したのみの結果)。
★LCD側:合計約238g(以下は主要部品)
★キーボード側:合計約290g(以下は主要部品)
上記を合計すると、528g(単三電池2本を含まず)。「これはもうあり得ない……」と立石氏は思ったと言う。500g超えとなると、現在市場で普及する薄型ネットブックに近い重さになってしまう。
そして従来のポメラ DM20の重量は、370g。これよりも軽くするのは厳しいだろうが、せめて300g台にしなければ、新型のポメラを買おうとは、きっと思ってもらえない……。
「2000円」と「1980円」の印象が違うように、「400g」と「399g」では印象が違う。よって、DM100のもう1つの譲れない要求仕様は「重量は399g以下(電池抜き)」ということになった。
DM100は、薄型・軽量な仕様となり、一から新規で機構を起こさなければならなかった。当然、従来ポメラの機構もほぼ流用できない。
今回、歴代ポメラの機構設計を担ってきたあの中国メーカー A社は、どうしたのか。
A社は「やります!」と言ってくれたものの、彼らはここまで極限な薄型・軽量化設計の経験がなかった。
そこで白羽の矢が立ったのは、キングジムとたまたま縁のあった、薄型・軽量化設計を得意とする、とある国内メーカーの関連会社。それまで、一度も協業したことがない企業だった。この記事では、この企業をB社と呼んでいく。キングジムはこのB社に、平たいポメラの機構設計を委託することにした。
とはいえ、キングジムがA社をばっさり切り捨てたのではない。キングジムにとってA社は、ポメラ開発の苦労を分かち合ってきた大切な同志。A社には、今後の勉強も兼ねて、B社の設計会議に共に参加してもらい、生産については、これまで通りA社に委託した。
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