日本は世界第3位の地熱資源国だ。しかし、地熱の利用がほとんど進んでいない。さまざまな理由があり、1つは既存の温泉地との調整が難しいためだ。国内でも導入が進み始めたバイナリー発電は、温泉の源泉には手を加えない。ボーリングも必要ない。既存の設備に後付けで導入できる。このため、地熱発電を補う方式として、今後大きく伸びる可能性がある。
日本は地熱資源が豊富だ。世界3位(2340万kw、23.4GW)を誇る。しかし、実際の発電容量では55万2010kW(552MW、2010年)にとどまっている*1)。資源量の40分の1以下しか利用できていない。さらに1996年以降は発電容量が頭打ちになっており、新規導入量はほぼゼロだ。なぜだろうか。
*1) 火力原子力発電技術協会が2011年11月に公開した「平成21,22年度地熱発電所運転状況(速報値)」(PDF)による。
資源の大半が国立公園内にあることも一因だ。さらに実現にあたって大きな制約となるのが周囲の温泉地との共存だ。温泉地は湯が命である。地熱発電のためにボーリングを施し、もし湯量が減ったり、湯の温度が下がってしまったらどうなるのか……。
このような不安を拭い去るのが「バイナリー発電」だ。バイナリー(binary)とは「2つのものからなる」という意味。高温流体(温泉)と低沸点媒体という2系統の液体を使うため、バイナリー発電と呼ばれる(図1)。従来の地熱発電とは異なり、既存の源泉の井戸を使い、温泉発電ユニットを追加する*2)。井戸の新規掘削は必要ない。
*2) バイナリー発電は熱源さえあれば、温泉とは無関係に導入できる。例えば、工場の排熱を利用したバイナリー発電の導入も試みられている。
国内初のバイナリー発電は2004年、地熱発電所である九州電力八丁原発電所(大分県九重町)に実証試験用として導入された。出力は2MW。130℃の熱水流量64.14トン/時(約1000L/分)。同社は地熱発電所である山川発電所(鹿児島県指宿市)に出力250kWのバイナリー発電設備を設置し、2012年から実証試験を開始する。この2カ所が国内で動作しているバイナリー発電設備である。
被災地である福島県でもバイナリー発電の導入を試みる。湯遊つちゆ温泉協同組合と宝輪プラント工業、JFEエンジニアリングは2012年1月27日、福島市土湯温泉町における温泉バイナリー発電の事業化へ向けた調査業務に着手した*3)。
2014年に500kW級の発電事業の開始を目指す。その後、1MW級に拡大することで土湯温泉の電力需要を全て賄うことを目標としている。
*3) 環境省が2011年11月に公募した「平成23年度再生可能エネルギー事業のための緊急検討委託業務」を受託したもの。2012年1月13日に44の提案のうち、8件(太陽光3、風力4、地熱1)が採択された(うち、太陽光発電について触れた関連記事:南相馬市に国内最大級のメガソーラー、東芝など3社が取り組む)。
湯遊つちゆ温泉協同組合が所有する源泉(図2)から噴出する「湯」は約150℃もある。「このままでは温泉として利用できないので、65℃に冷やして分配している。つまり熱エネルギーが無駄になっている」(JFEエンジニアリング)。「地熱発電については反対する声も聞こえるが、バイナリー発電では1つもない。源泉の配管に熱交換機を付けて、40℃以下で沸騰する液体を湯とは別に循環させ、タービンを回したあとで冷却して液体に戻す。このような仕組みであるため、温泉自体には何の影響もないからだ」(湯遊つちゆ温泉協同組合)。
事業の分担は次の通り。湯遊つちゆ温泉共同組合は、委託業務全体の取りまとめと、地域社会との調整を担当する。宝輪プラント工業は坑井利用計画と資源量調査を担う。新規の温泉井の掘削などは行わない。JFEエンジニアリングは温泉発電設備の設計、検討を進める。
JFEエンジニアリングは2002年に土湯温泉の配管を施工した経験がある。2010年6月に米Ormat International(米Ormat Technologyの100%子会社)と地熱バイナリー発電設備の業務提携を締結しており、ターンキーで提供することも発表している。「当社として現時点では国内初のバイナリー発電導入の事例になる予定だ」*4)。
*4) 同社は2011年7月に岩手県で地熱発電の事業化検討に合意しており、2015年には7MW級の送電を開始する予定だ。岩手県でもバイナリー発電を導入する可能性があるという。
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