インタビューを終えて感じたことは、小濱氏の議論が燃料電池単体だけで小さく閉じていないことだ。研究の発端が輸送機関にあったためか、一国、さらに世界のエネルギー循環をどうすれば作り上げられるかを考慮した形になっている。
同氏の構想は、欧州と中東、北アフリカの各地に分散する再生エネルギー発電所(風力、太陽熱、太陽光など)を長大な送電網で結ぶDESERTEC(デザーテック)構想と似ている。ただし、日本向けに改良を加えた形になっている。
地球上で太陽エネルギーを得やすい場所は限りないが、いずれも熱帯や乾燥地帯に位置する。欧州はこのような条件を満たす国と地中海を挟んで隣り合っており、無理のないエネルギーネットワークを形成できるだろう。
一方、日本はこのような条件を満たす国から遠く離れている。小濱氏によれば、太陽エネルギーを得やすいオーストラリアでは70km四方の土地*6)を使うだけで日本が消費する全エネルギーを得られるという。残念ながらオーストラリアと日本の直線距離は6000kmにも及び、送電は非常に難しい。
*6) オーストラリアの国土面積は2770km四方に相当する。なお、オーストラリアは世界有数の日照条件を誇る(関連記事:成功するメガソーラーの条件とは、日本商社がドイツで取り組む)。
ここで小濱氏の構想が生きてくる。オーストラリアで金属Mgを作り出し、日本に送る、さらに日本から使用済みのMgO(酸化マグネシウム)をオーストラリアに送るという物質循環であれば送電とは異なり、実現可能だ(図4)。数千km離れた地点からエネルギー源を大量に運び利用する。これはまさに中東から原油を運んで燃やしている現在の姿と重なる。
小濱氏は「砂漠が燃料工場になる」と主張している。具体的にはどうやって金属Mgを作り上げるのだろうか。このような疑問にも回答を用意している。例えば、2011年10月には凹面鏡を使った金属Mg精錬技術を発表している(図5)。リニアモーターカーの走行実験に使われていた実験施設内(宮崎県日向市)に設置した凹面鏡を利用したものだ。
Mg燃料電池の性能改善とともに、低コストで金属Mgを作り上げる技術の改善が進めば、石油などの化石燃料の置き換えが進むだろう。
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