空気と水と太陽光だけで燃料を作る、豊田中央研が人工光合成を実現電気自動車(1/2 ページ)

常温常圧、太陽光下で水と二酸化炭素から、有機物の一種であるギ酸を合成した。紫外線や外部電源などは使っておらず、太陽光だけで燃料を無限に製造できる可能性が開けたことになる。

» 2011年09月21日 19時50分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]

 太陽光から電気エネルギーを取り出す装置は広く普及している。太陽電池だ。では太陽光を使って物質を合成する装置は存在するだろうか。

 存在する。植物だ。植物は水と二酸化炭素からブドウ糖(グルコース)を合成している。地球上のほぼ全ての生物が生存できるのは、植物が光合成の能力を備えているからだ。

 住宅用の太陽電池でも、変換効率の高い製品を使うと太陽光のエネルギーの20%を電力に変換できる。それでは植物の「変換効率」はどの程度だろうか。

 実は意外に低く、0.3%程度だ。この程度の効率であっても、全ての生命を支えることができる。

 太陽電池が存在するにもかかわらず、人工光合成に意味があるのは、「人工光合成=太陽電池+二次電池」と見なすことができるからだ。太陽電池は発電した電力を蓄積できないが、人工光合成ならば有機物の形で蓄えることができる。例えば、ガソリンを生成できるなら、太陽電池の「欠点」を補う有用な装置となるだろう。地球温暖化の一因であるCO2を減らし、化石燃料減少にも対応できるいわば一石二鳥の取り組みといえる。

常温常圧の自然な条件で人工光合成

 空気と水から有用な物質を作り上げる人工光合成は、有機化学者の夢であり、1950年にカルヴィンとベンソンが植物の光合成における二酸化炭素固定反応の秘密を解き明かして以来、長く研究が続いてきた。

 現在は特殊な条件下であれば人工光合成が可能になった。太陽光よりも高いエネルギーを持つ紫外線を照射する他、装置の外部から電力を供給する、酸化還元反応を仲立ちする犠牲試薬を加えると言った手法を採れば空気と水から有機物を作り出せる。しかし、これらの方法は外部から太陽光以外のエネルギーを加えている。植物のように常温常圧で外部電力なし、自然の太陽光だけで光合成を進められないのだろうか。

 トヨタグループの研究開発企業である豊田中央研究所は、2011年9月20日、人工光合成の実証に世界で初めて成功したと発表した*1)。「ずる」をせず、CO2(二酸化炭素)とH2O(水)からHCOOH(ギ酸)*2)を合成した(図1)。常温、常圧、太陽光と同じ光強度(1kW/m2)で反応が進み、水に加えた物質は無機の電解質のみだ。「実験の再現性は高いと考えており、他の実験グループによる追試の結果が楽しみだ」(豊田中央研究所で首席研究員を務める梶野勉氏)。

*1)2011年9月7日付、American Chemical Society電子版に掲載 "Selective CO2 Conversion to Formate Conjugated with H2O Oxidation Utilizing Semiconductor/Complex Hybrid Photocatalysts"

*2)アリの毒から発見されたため、「ギ」(蟻)酸と呼ばれる。医薬品の原料やゴムの凝固剤、溶剤などとして利用されている。工業的にはNaOH(水酸化ナトリウム)とCO(一酸化炭素)から合成する。年間合成量は約1万トン。

ALT 図1 人工光合成の構成 図左側で太陽光のエネルギーを利用して水を酸化してO2(酸素)とH(プロトン)を得る。光触媒としてTiO2を用いた。図中央にはプロトンだけを通すプロトン交換膜を置く。図右側でCO2(二酸化炭素)をプロトンと結合させて還元し、HCOOH(ギ酸)を得る。水を電子ドナーとプロトンソースとして利用し、2ステップ光励起システムを作り上げたことが特長。反応式は、CO2+H2O→HCOOH+1/2O2 出典:豊田中央研究所

 実験では、太陽エネルギーの変換効率は0.03〜0.04%だった。植物の光合成の1/5程度にせまっている。最初の実証実験としては高い値なのではないだろうか。今後はCH3OH(メタノール)など、より付加価値が高く、例えば燃料電池の燃料として直接利用できる物質の合成に挑戦するという。

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