太陽電池の大量普及を狙うには、住宅の屋根やメガソーラー以外の設置場所を探る必要がある。JR東日本が求めていたのは、軽く、自由な形状を狙える太陽電池だった。
太陽電池が広く普及した将来、住宅の屋根や道路、メガソーラーなどさまざまな場所に設置が進んでいるだろう。外光を遮るものがなく、他の用途に使えない空間は、太陽電池の設置に適している。この条件を満たしているものの、現在は取り組みが進んでいない場所がある。壁や曲面でできた屋根だ。
広く普及しているSi(シリコン)太陽電池は重い。1m2当たりの重量は約10kgに達する。住宅の屋根やメガソーラーであれば専用の架台を設置することで耐えられるが、そもそも重量物を載せることを考慮していない屋根や壁に取り付けようとすると、補強工事が必要になってしまう。
JR東日本は駅の関連施設に太陽光発電システムを設置し、駅内で利用する電力を補う取り組みを開始した。太陽電池に求める条件は、軽く、自由な形状にできること、さらに、光を透過することだ。「駅の屋根は重量物を載せることを考えていない。さらに屋根形状が複雑であること、電車の振動に耐えることなどさまざまな条件がある。これを満たす太陽電池でなければ採用は難しい」(JR東日本)。通路スペースに採用することを考えると、光を遮る太陽電池は適さないという(図1)。
同社は2010年夏ごろから、JR東日本コンサルタンツや太陽電池の開発企業であるイデアルスター、ガラス基板の開発製造企業である倉本製作所と共同で、駅に導入する太陽光発電システムの検討や試験を進めてきた。2012年1月25日から約1年間のフィールド試験を日光線鶴田駅(宇都宮市)*1)で開始した(図2)。使用した太陽電池は、有機薄膜太陽電池である。Si太陽電池の10分の1以下と軽く、形状を工夫でき、光を遮らないという性質がある。
*1) 鶴田駅は宇都宮駅の隣の駅だが、1日の利用人数が1400人程度(2010年度)の小規模な駅だ。「太陽光発電システムを利用した環境負荷低減の取り組みはまず小規模な駅から進めたい。鶴田駅は中学校や高等学校の通学利用が多いため、教育効果も狙った」(JR東日本)。
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