価格性能比に優れた太陽電池とは小寺信良のEnergy Future(11)(2/4 ページ)

» 2011年12月22日 11時10分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

カドミウムを使わないソーラーフロンティア

 一方同じ薄膜・化合物系でも、ソーラーフロンティアのCISは、Cu(銅)、In(インジウム)、Se(セレン)を結晶構造にしたもので、カドミウムのような有害物質を含まないところがポイントである(図3)。CISは原材料の頭文字を取ったものだが、Ga(ガリウム)も使うためCIGSと呼ばれることもあるそうだ。

図3 CIS(CIGS)の結晶構造 Cu、In(一部Ga)、Seという複数種類の原子が規則的に結合して3次元構造をとっている。出典:ソーラーフロンティア

 セレンは1950〜70年代初頭にかけて、カメラの露出計に受光素子として使用されていた。これも一種の小型太陽電池(セレン光電池)である。だが当時は製造過程で有害な化合物を出すということで、製造中止となった過去がある。現在の製造工程ではもちろん、そのような問題はクリアされている。

 同じ化合物系でも、First Solarのようにカドミウムを加えると確かに変換効率は高くなる。だが将来的な環境負荷を考えて、ソーラーフロンティアではあえて有害物質を使用せずに変換効率を高めることを目標としている(図4)。

図4 薄膜系太陽電池の種類 薄膜系太陽電池は、まずシリコン系と化合物系に大きく分かれる。化合物系はCISとCdTeなどに分かれるが、CISにも一部カドミウムを含む製品がある。

 ちなみに1970年代にセレンに変わって露出計受光素子として台頭したのが、硫化カドミウム(CdS)である。受光素子の歴史がそのまま太陽電池開発と原理的につながっているのは興味深い。

実は歴史のあるソーラーフロンティア

 さてここでちょっと休憩がてら、ソーラーフロンティアという会社について少し触れてみたい。名前が新しいため、よくベンチャーと勘違いされることも多いそうだが、もともとは昭和シェル石油の太陽電池研究開発部門に端を発している。親会社は昭和シェル石油だが、現在ソーラーフロンティアの社員は約1500人で、本体ともいえる昭和シェル石油を上回っている。

 昭和シェル石油が太陽電池の研究に着手したのは1978年。第二次オイルショックがきっかけであった。若い方はご存じないかもしれないが、1973年の第一次オイルショックの混乱は、子ども心によく覚えている。原油価格高騰のあおりから物価が急上昇し、どういうわけか原油価格とは直接関係のない洗剤やトイレットペーパーの買い占め騒動が起こった。

 当時筆者の実家は酒屋兼雑貨屋を営んでおり、洗剤やトイレットペーパーを売る側だったのだが、飛ぶように売れるので、倉庫から店の棚の上から何から、もう店中がトイレットペーパーだらけになった。それが毎日全部売れるのだから、どれだけ日本中が混乱したかよく分かるだろう。

 幸いにして第二次オイルショックは前回の教訓があり、大きな騒動にはならなかった。しかし工業立国日本にとっては、加工貿易の生命線ともいえる石油の供給が物理的枯渇ではなく、政治的理由で簡単にストップしてしまう事態に2度も直面したことで、省エネと石油以外のエネルギーの獲得へ動き出すには十分なインパクトであった。

 ソーラーフロンティアは薄膜系でもシリコンやアモルファスなどいろいろな方式を並行して研究を進めていたが、1993年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からCISの研究開発事業を受託したことをきっかけに、CISへ研究を一本化した。NEDO自体ももともとはオイルショックを受けて石油代替エネルギーの研究開発母体として設立された特殊法人である。

 CISの事業化を決定したのが2005年、会社として前身となる「昭和シェルソーラー」が設立されたのが2006年、現在の名称に変わったのが2010年のことである。従って名前は新しいが、太陽電池の開発スタートから数えれば、33年の歴史がある。

 ソーラーフロンティアの太陽電池は、国内メーカーでは最長となる、モジュール出力の20年保証を付けている。モジュールの出力が10年間で10%以上低下した場合、または20年間で20%以上低下した場合に、モジュールの追加、修理、交換に応じる。

 これだけ長期の保証ともなれば、当然メーカー側にもリスクが生じる。それをさらに保険でカバーする、「再保険」という仕組みがある。

 この再保険で世界的な大手である「ミュンヘン再保険」は、かなり厳密な審査を行っており、1つの国では1つの業態としか契約しないそうだが、2011年7月にソーラーフロンティアの20年保証に対して再保険を提供した*2)

*2) ソーラーフロンティアのニュースリリース

 これも長年の研究と事業化の足場をしっかり評価したという結果だといえるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.