HPCが工業製品の設計のあり方を大きく変化させる可能性について、以下のように述べた。
小野氏は以下の点により、コスト削減が可能であると述べた。
より高解像度でモデリングの影響が少ない、信頼性の高い計算を目指す。非常に大規模な計算を用いて現象解析することで、不具合の発見・探索をする、あるいは新たなデバイス開発をするなどに役立てられると考えていると言う。
「シミュレーションはある方程式に基づいて計算されるものです。その過程で実際の現象をモデリングしているわけですが、モデリングとはすなわち、仮定に基づいて現象を簡略化・抽象化するということになります。そのモデリングの抽象度が高いと、シミュレーションが成り立たないこともあります。そこで、『実現象のモデリングをできるだけしない』ということになると、格子節点数が非常に増えていくことになります。しかしこのプロジェクトでは、物理現象の近似(モデリング)をできるだけ少なくして、代わりに非常に大規模な計算により信頼性の高い結果を出す方向で進めています」(小野氏)。
「私のバックグラウンドは流体解析ですが、単相流(空気だけ、水だけ)の計算は比較的簡単に解きやすい部類です。ところが混相流、あるいは化学反応や現象を伴うものは、方程式自体が非常に解き難いものになります。いままでは必要な計算資源が大きすぎて解けなかった問題が、京では解けるようになっています。つまり、いままでできなかったシミュレーションができるようになるということです」(小野氏)。
同研究所の開発方針・方向性については、以下の通りだという。また、対象とするシステムは京だけではないことを強調した。
「このシステムはワークフローによって自動処理が行えます。ワークフローで記述された定型処理をぐるぐる回すことによって短期間で設計情報を得ることが可能となります。京を利用すれば、非常に高速にこの自動処理が行えます。ここでお話をするシステムというのは、京だけではありません。皆さんが使っているデスクトップの上で動く、あるいはハイエンドなマシンでも動く――マルチプラットフォームで稼働することを目標としています。システムの開発に当たって、実際の適用のシナリオを考えて、それを実現するような機能抽出、機能実装というのを考えています」(小野氏)。
次に小野氏は、大規模並列計算を実施する場合の問題点について述べた。
「ファイルハンドリングは、このようなシステム全体に関わる問題です。非常に大量、しかも大規模なファイルが出てくる可能性があります。計算機の中で、ハードディスクが最も低速なデバイスです。ここにアクセスして読み書きするというのが、全体の処理の中で比重が大きくなってくると、そこでスループットのボトルネックといった問題が出てきます。なので、この部分をいかに効率化するかということになります。その上、ユーザーに対しては煩雑な見せ方をしないようにする工夫も必要です」(小野氏)。
もう1つは、定型(ルーチン)処理の効率化であると言う。
「従来、ワークフローを導入して自動処理するということが行われてきましたが、われわれもそれを踏襲します。その根底にあるのが、『人が直接管理できない項目が、非常に増えてくる』ということです。その点までユーザーに見せていると、……簡単に言うと、“ユーザーが嫌になる”。つまり、心理的ハードルが高くなってしまいます。ユーザビリティが生産性に大きく影響するようなところは、(そういった要素を)できるだけ排除するようにしています」(小野氏)。
小野氏らは、上記のような問題点を解消するべく、「High Performance Computing Platform」(HPC/PF)というHPCミドルウェアの開発を進めている。
「従来の国家プロジェクトにはあまりなかったと思いますが、シミュレーションだけではなく、プリやポストなどの周辺技術を含めて設計者システム自体を考えているという点で、画期的かと思います。開発当初は、基盤システムの機能実装に注力して進めています。基盤システムを構築した後、それを専用設計システムへ拡張するという方針です」(小野氏)。
HPC/PFが動作するハードウェアは、以下の図のようにさまざまなものを考慮しているという。
「データベースには、チュートリアルやマニュアル、いろいろな事例がコンテンツとしてあり、これをうまく使えるようにします。こういう基本的な機能がHPC/PFですが、実際に使うとなると、さまざまな領域固有の方法というのを実装しなければなりません。これをベースとして拡張を持たせることで、例えばターボ機械設計システム、自動車空力の設計システム、燃焼ガス化装置設計システムといったような領域に特化したものを構築していきます」(小野氏)。
HPC/PFは以下の図のように、幾つかのサブシステムにより構成されている。
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