日本の“勝ち組”メーカーは慢心していないか?――「新ビッグスリー」VWの躍進から見る技術と戦略の妙井上久男の「ある視点」(4)(1/2 ページ)

快進撃を続けるVW。内燃機関の技術向上に注力した意味はどこにあったか。コスト削減だけでなくサプライヤとの関係をも考慮した戦略と技術的挑戦との対比から日本のクルマづくりを見る。

» 2011年07月22日 12時00分 公開
[井上久男,@IT MONOist]

 独フォルクスワーゲン(VW)が快進撃を続けている。直近の2011年1〜3月期の四半期連結決算では、売上高が前年同期比約30%増の374億7000万ユーロ(4兆2566億円)、純利益が3.8倍の15億9500万ユーロ(1812億円)となった。営業利益率も前年同期の3%から8%に伸びた。中国、インド、ロシアで販売を伸ばしたことなどが貢献している。

 世界最大の自動車市場である中国での2011年1〜6月の車種別新車販売でも、上海汽車との合弁である上海大衆(上海VW)の中国市場専用セダン「ラヴィータ」が初の1位になった。トップテン内には「ジェッタ」など計4車種がランクインした。ちなみに日系メーカーの車は2年連続でトップテンの圏外となった。

 1年間を通じた決算を見ても、VWの2010年12月期の連結決算は、売上高が21%増の1269億ユーロ(14兆4158億円)、営業利益は3.8倍の71億ユーロ(8066億円)。営業利益率は5.6%だ。純利益は7倍の約68億ユーロ(7725億円)で過去最高を更新。全世界での新車販売が14%増の約720万台とこれも過去最高であり、トヨタ自動車(トヨタ)や米ゼネラルモーターズ(GM)と競り合っており、世界トップの座も視野に入ている。

svw 上海VWのWebサイト。画像は「ラヴィータ」

新ビッグスリーの決算から見るVWの躍進

 VWを加えて「新ビッグスリー」と呼ばれ、世界で競い合っているトヨタや韓国の現代自動車(現代)の決算データを参考までに示すと次のようになる。

 現代の2010年12月期の連結決算は売上高が前年同期比23.1%増の112兆5897億ウォン(約8兆5680億円)、営業利益が62.2%増の9兆1177億ウォン(約6938億円)、純利益が97.4%増の7兆9829億ウォン(約6074億円)となり、いずれも過去最高を更新。営業利益率は8.1%。

 トヨタの2011年3月期の連結決算は、売上高が0.2%増の18兆9936億円、営業利益が約3.2倍の4682億円、純利益が94.9%増の4081億円。営業利益率は2.5%。

 VWが好調な背景には、「負けた経験」の活用がある。VWは1980年代後半、日本車との競争に敗れ、米国での生産から撤退した。その後、トヨタやホンダは北米市場で大きく販売を伸ばしし、2008年9月のリーマンショックまで利益の9割近くを北米で稼ぎ出し、わが世の春を謳歌(おうか)したのとは対照的に、VWは苦境の時代が続いた。エコカー競争でも、トヨタのハイブリッド技術が注目される中で、こうした技術にも出遅れた。グループ戦略を巡ってもポルシェとの「内紛」が続いた。

 VWにとって雌伏の時期が続くが、2004年に反転の狼煙(のろし)が上がる。「フォーモーション」と呼ばれる大規模なコスト削減プロジェクトを開始し、ドイツ国内のリストラや調達システムの改善など合理化を一気に推進したのだ。

 地味だが、この苦境期にVWがコスト削減のために推進した部品の共通化やモジュール戦略がいま開花し、高収益につながっている。

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