製品設計・開発業務は、創造性が高いため定型化することには幾つか課題がありますが、部門間で業務が進んでいく流れを見える化し、可能な限り定型化することは、品質管理の点からも必要なことです。
しかしながら、フロントローディングを実現するため、設計者が、部品サプライヤの技術者と直接すり合わせる必要が増しており、設計変更情報をリアルタイムで漏れなく行うことが求められています。さらに、情報セキュリティ保護の観点からデータ授受に関する記録も必要なため、例えば、各設計者が管理台帳に記述したり、所定の監督者が管理したりするための工数も負担になってきています。
そのため、ワークフローを定義することで業務を定型化することが重要ですが、クラウドPLMサービスの場合は、海外の部品サプライヤまで含めてワークフローを定義できます。
ボーダレスワークフローを実現するクラウドPLMサービスの要件は以下です。
採番には多くの担当部署の人と情報が関わるため、採番により品番を取得する過程において、多くの情報を事前に準備したうえで申請する必要があります。クラウドPLMサービスの品目構成管理によって、一連のデータ準備、ルール確認、採番ルール適用といった申請プロセスを定型化することで、より簡単に間違いなく品番を取得でき設計者の負担を軽減できます。
ワークフローに関しても、製品設計情報とひも付けた形で新規設計承認プロセス、設計変更プロセス、そして出図プロセスに伴う各種役割の定義とタスクを明確に定義しておくことで、作業の効率化が図れるだけでなく、最新ではない情報で作業を進めてしまうといった人的なミスやロスをなくすことができます。また、ワークフローの各タスクにおいて、差し戻し理由、変更依頼のコメント、改善のためのフィードバックといった設計ノウハウを履歴とともに保管できるので、全文検索機能などを活用し容易に過去の設計ノウハウを参照できます。
海外の部品サプライヤとの間でも、作業指示の手間や作業進捗(ちょく)の問い合わせ回数を削減できるだけでなく、生産準備・生産工程で見つかる不具合や改善要項のフィードバックも確実に行え、フロントローディングが促進されます。
自分自身が設計した図面ファイルであっても、どこにあるのか分からなくなるのに6カ月もかからないといわれています。実際に、過去の製品あるいはプロジェクトにおける特定の図面、あるいは技術情報を参照しようとしても、目的の図面や文書にたどり着くのにかなりの時間を費やしてしまいます。
さらに、ほかの設計者が作成した図面や技術文書の場合には、自分自身が設計したファイル以上に検索するのは大変なことです。共有環境において、製品あるいはプロジェクトに基づき、しっかりと体系的に管理しておかないと、なかなか探しているファイルを見つけ出すことはできません。
過去の設計情報の検索について、順番に見ていきます。
まず、ファイル名や品番が分かっている場合には、そのファイル名や品番を頼りに台帳を参照し検索します。また、文書管理システム、もしくはPLMで体系的に管理されている場合には、特定の顧客、プロジェクト、あるいは製品にひも付いた検索を行ったり、設計者、修正者、そして承認者で検索することができます。この場合には、システムが持っているキーワード検索を利用します。
しかし、それでも目的の設計情報が検索できなかったり、図面に書かれている注記、公差、寸法、さらには技術文書に記載されている内容を確認しないと目的の設計情報なのかどうか判断できない場合が多いのではないでしょうか。このような場合、全文検索機能が必要になります。
不特定多数のサプライヤとクラウド上で製品設計情報を共有する場合、各社独自の書式で情報が記述されていることも想定され、ファイル名、品番、あるいはキーワードのみでの検索には限界があります。クラウドPLMサービスで全文検索機能が利用できれば、クラウド上のPLMサーバに一元管理されている製品設計情報サーバから、文書の中身まで対象とした検索が可能となります。
設計変更が量産開始ぎりぎりまで行われている場合、あるいは量産を開始したばかりの段階では、生産設備や工程に品質トラブルが発生して手戻りが発生することが少なくありません。また、過去のトラブルに関する情報が体系的に整理されていないと検索することが難しく、適切な対策を講ずることができないため、同じ品質トラブルを何度も起こしかねません。特に、設備の設計から設置までを外部の設備サプライヤに依存している場合には、ノウハウ自体を一元的に管理することが難しいという事情もあります。
新規製造ラインの工程、設備のシステム構想から機械設計・製作・海外工場での立ち上げを支援するクラウドPLMサービスの要件として以下が求められます。
クラウドPLMサービスの工程管理機能を活用すると、製品とプロジェクトにひも付けた形で、工程表・設備番号・金型番号・冶工具番号・標準工数などを生産準備BOMとして作成、管理できます。この場面において、部品サプライヤもクラウドPLMサービスを利用していれば、部品サプライヤからの進捗情報などをリアルタイムで共有できるようになります。
以上、部品サプライヤとの部品設計データ授受におけるクラウドPLMサービスの活用を紹介しました。
次回は、自社内の製品設計情報管理への活用について紹介します。
佐野敏夫(さの としお)
電通国際情報サービス エンジニアリングソリューション事業部 PLMソリューション部 PLEXUSグループ プロジェクトディレクター。クラウドを使ったPLMサービス「PLEXUS」を展開する。
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