ミナロでは、試作以外のビジネスとしてケミカルウッドの販売事業もしています。
もともとケミカルウッドは端材処理にもお金が掛かるほどで、無料でも良いから引き取り先を求めるようなものでした。それを商材にネット販売してみよう、というところから、この事業を始めたとのことです。それが意に反して、予想外の売り上げになり、事業の柱の1つになったということです。
最初、顧客は個人客だろうと想定していたとのことですが、大企業や、学校からの注文が多くを占めるようになってきたといいます。例えば、デザイン学校の卒業制作では、1人1人材料寸法が違うため、周囲に購入先が全くないという状況でした。現在、その学校もミナロのリピーターとのこと。
Webからの顧客の要望に応じて、切り分けして販売するというこの事業は、Web対応が迅速でその場で切り出しも行えるような、ミナロにしかできないビジネスです。材料メーカーや小売店では、双方の機能を持ち得ないため実現できなかったのでしょう。
ケミカルウッドというのは、被削性が良いため、ただ削るだけならば誰にでもできます。そこで緑川氏は子どもたちを集めて、体験加工のイベントもしています。モノづくりにあまり関わりのなかった子どもたちに、カッターや彫刻刀などで「削っていく」ということを実際に体験してもらうのです。そうやってモノづくりの面白さに気付いてもらうということが、製造業の果たす役割の1つだろうという思いから取り組んでいるということです。子どもたちも、実際に削ってみるということを楽しんでやっているそうです。
私自身は町工場の息子だったので、加工現場というのは身近でしたが、普通の人はまず、体験したことのない環境だと思います。そうだとすると、その面白さも知らないわけですから、大人になって製造業に勤めようという気にならないのかもしれません。なので、子どものうちにモノづくりの楽しさに気づいてもらうという試みは、とても重要なことだと私は思うのです。
アナハイム計画――「スプーンから宇宙戦艦まで」というキャッチフレーズで有名な某企業*1の名前を由来にしたこのプロジェクトは、「日本国内で将来、どういうモノづくりが必要とされるか」、という緑川氏の思いから企画されたとのことです。
緑川氏によれば、やむを得ず海外に移転できず、日本国内でやらなければならないモノづくり産業については、食品とエネルギー分野を押さえることが肝心だということです。
インフラといえば、「大手企業でなければ」と思いがちですが、小さなコミュニティー単位で、自給自足的に行っていく未来像を想定すると、むしろ大企業ではなく、中小企業群が取り扱うべき分野だといえます。モノづくりに関する、個別対応力やスピード感においては、大企業では太刀打ちできません。
現在研究開発中ですので、詳細はお伝えできませんが、食品分野においては、「LED灯+水耕栽培」の家庭用簡易キットの試作機が工場内にあり、イチゴなどが生産できるとのことです。このLED灯の赤色光が植物の生育に有効である、とか……、加工屋さんでありながら、農業関連の知識まで身に付けています。こちらは研修を受けて学習したとのこと。エネルギー分野については、化学関連の研修を受けて勉強中。この好奇心旺盛で柔軟な発想こそが、マイクロモノづくりスピリットだといえます。
このように緑川氏は日々進化しています。お客さまに直接向かい合うためには、どのような要求にも対応したくても、それに対応できる能力を身に付けていかなければ務まらない。そういうことを同氏が体現しているといえましょう。
ビジネスという目的があって、仮説を立てて、必要な知識情報を集め、モノづくりをしていく。そうすることで、お客さま自身が気付いていないニーズに合致した製品を作り出し、提案していける限り、仕事もなくなることはないでしょう。仕事が激減している会社の経営者さんはどうか一度、「お客さま」という人間そのものを見つめることが必要なのではないでしょうか。
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