ここまでで、発生したサプライチェーンを分断させる不測の事態、それらについて先進的な企業がどこまで取り組んでいるかをご紹介しました。
いわゆる「グローバルリーダー」企業の多くが、高い次元でリスク管理を実践しつつあるものの、一方では先の資料にあるように日本ではたった35%しか取り組めていないのが実情です。
ここからは、こうしたリスクをどのように管理していけばいいのか、その方法を考えていきましょう。
サプライチェーンリスクマネジメントの目的は、リスクを最小化し、かつ、発生したトラブルからの回復期間を短くすることです。筆者らの考えるサプライチェーンリスク対応プログラムは、下記3つの要素から構成されています。
以降で各項目をどのように扱っているか、詳細を説明していきます。
1)リスクのアセスメント リスクの評価は、リスクの蓋然性とリスクの持つ財務上のインパクトの両方の側面から行います。
リスク蓋然性の評価 リスクの分類、発生の可能性検討から始まり、リスク要因の管理、発見の容易性、リスクを緩和するための戦略と行動規範を検討します
財務インパクトの評価 そのリスクの持つ損失から始まり、リスクが発現した時の意思決定手順、それぞれのリスクに対して準備すべき感度、そして、実際に取りうるオプションを検討します
リスクに対しては戦略的かつ適切に対処しなければなりません。その最初の一歩は、リスクを体系的に管理することです。
全てのサプライチェーンのリスクが同じ重みというわけではありません。それぞれにおいて、考え方や対応の方法が変わってきます。それゆえに、リスク評価はリスク要因をカテゴリごとに分けて検討しておく必要があるのです。
サプライチェーンのリスクは大きく5つに分類できます。
2)リスク緩和アクションの作成 有事の事象が発生した場合のS&OP(セールス・アンド・オペレーションズ・プランニング)の作成をさします。これは、戦略的なレベル、戦術的なレベルの双方において作成が必要です。有事のサプライチェーンネットワーク、もしくは、その時の検討手順、リスクを折り込んだ在庫最適化、リスクを考慮した戦略的なサプライヤーの選定、有事に対応できる契約体系の確立、などを行います。
3)リスクのモニター&コントロール オペレーションレベルでのリスクマネジメントを目的に、サプライチェーンの可視化、イベントマネジメントの強化策を作成します。これらの検討の中には、有事を判断するためにセンサーとしてプロセスに埋め込まれる管理ポイント、その管理ポイントの値、管理ポイントの変化を判断するプロセス、その判断結果を次のアクションへと結び付けていくプロセス、などが含まれます。そして、これらのプロセスは、将来の変化を予測/シュミュレーションするプロセスと一体化し、センス&レスポンド(検知&反応)ではなく、プレディクト&アクト(予知&行動)型の管理を実現します。
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次回は筆者らが考えるリスク管理を高度化するためのアクションプランを見ていきます。リスク管理を難しくしている要因や、その排除のために必要なことなどもご紹介します。
毛利光博(もうり みつひろ)
日本IBM 戦略コンサルティンググループ
(http://www-06.ibm.com/services/bcs/jp/solutions/scos/consul/mouri.html)
製造業、外資系コンサルティング会社を経て日本IBMに入社。現在、グローバルサプライチェーンの責任者として活躍中。IBMの変革の経験と自分自身の製造メーカーおよび海外経験から、グローバルに展開する企業のロジスティクスのマネジメント手法を確立。構想策定からシステム導入まで幅広いプロジェクト経験を所有し、顧客の変革プロジェクト、執筆、講演と幅広く活動中。
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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