CAEが助けたハイブリッド車の鍛造用金型製経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(3)(3/3 ページ)

» 2010年03月31日 11時03分 公開
[山本 聡/機械振興協会 経済研究所,@IT MONOist]
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 興味深いのは、経営幹部がこの一連の出来事をリードしたわけではないことです。経営幹部は「ハイブリッド車用の金型を手掛けているなんてほとんど知らなかった」「そんな難しい案件、手掛けていいのだろうか」と考えていたといいます。いい換えれば、次世代自動車産業への参入は経営陣のトップダウンによってもたらされたものではなく、「組織」として勝ち取ったものなのです。

alt 写真6 同社のモノづくり現場:ワークの動き・工程に合わせて工作機械が整然と配置されています。技術者は必見の工場です
alt 写真7 同社の放電加工現場:筆者はこんなにたくさんの放電加工機が設置されている工場を拝見したことがほとんどありません。うーん、勉強不足かな?
alt 写真8 同社の放電加工技術者:情報処理関連の専門学校を卒業された女性が放電加工を行っています。若くおしゃれな女性も働いていらっしゃるのが、現代の金型企業なのです

 加えて、同社は現在、韓国の自動車産業とも積極的に取引をされています。全体の売り上げのうち、1割以上を韓国市場向けの輸出で賄っているとのことです。この背景には、韓国人従業員の方の営業努力によって、「ライバル企業がほぼ独占していた韓国市場の牙城を崩した」という経緯があります。同社の人材獲得・活用に関する組織作りが、海外市場参入を可能にしたといっていいでしょう。いまでは同社の受注先は韓国企業も含めて、120社ほどに上っているとのことです。

4.新たな産業にも柔軟に対応できること

 現在、日本国内の市場は人口減少や大手企業の海外展開により、縮小の一途をたどっているといえます。こうした中で、次世代のリーディング産業の必要性が声高に叫ばれています。新聞紙上で、「次世代自動車産業」や「新エネルギー産業」といった言葉を見ない日はありません。また、最近では海外市場への参入もうたわれるようになってきています。ただし、筆者は短絡的に「次世代自動車産業しかない」と判断することは受注先である大手セットメーカーへの依存であり、非常に危険なことだと思っています。

 ヤマナカゴーキンは、新規受注獲得を可能にする「組織作り」を長期的な視点で展開してきました。その結果として、ハイブリッド車に参入したのです。ハイブリッド車に参入しようとして組織を作ったわけではありません。

 日本では戦前から現在にかけて、繊維産業、造船産業、鉄鋼産業、電気電子産業、そして自動車産業といった形でリーディング産業が変化していきました。その都度、金型をはじめとする国内基盤技術産業は柔軟に新たな産業に対応していった歴史があります。言葉を変えれば、日本の中小モノづくり企業には変化への柔軟な対応力が内在的に備わっているはずなのです。そうした変化への柔軟な対応力を十二分に発揮できる組織作り、それがヤマナカゴーキンの経験から学べることではないでしょうか。

参考文献

  • 機械振興協会 経済研究所『国内素形材産業における受注拡大と市場開拓人材――金型・鋳造・表面処理など素形材企業の受注拡大に必要とされる人材とは?−』H21-5機械工業経済研究報告書
  • 素形材センター・素形材技術解説書製作委員会編〔2005〕『ものづくりの原点 素形材技術』日刊工業新聞社

筆者より、読者の皆さまへ:本連載の感想を送っていただけますと筆者の励みになります。

Profile

山本 聡(やまもと さとし)

1978年生まれ。機械振興協会 経済研究所 研究員として金型など素形材産業・中小企業の調査研究業務に従事、全国各地の企業を訪問する日々を送っている。日刊工業新聞社『型技術』、『機械設計』、工業調査会『機械と工具』など企業経営者や技術者向けの雑誌に産業・企業動向に関する多数のレポートを寄稿する一方、国内外でさまざまなセミナー講師も務めている。一橋大学 経済学研究科 博士課程に在籍中。連絡先:yamamoto◎eri.jspmi.or.jp(電子メール送信時は、◎を@に変えてください)



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