興味深いのは、経営幹部がこの一連の出来事をリードしたわけではないことです。経営幹部は「ハイブリッド車用の金型を手掛けているなんてほとんど知らなかった」「そんな難しい案件、手掛けていいのだろうか」と考えていたといいます。いい換えれば、次世代自動車産業への参入は経営陣のトップダウンによってもたらされたものではなく、「組織」として勝ち取ったものなのです。
加えて、同社は現在、韓国の自動車産業とも積極的に取引をされています。全体の売り上げのうち、1割以上を韓国市場向けの輸出で賄っているとのことです。この背景には、韓国人従業員の方の営業努力によって、「ライバル企業がほぼ独占していた韓国市場の牙城を崩した」という経緯があります。同社の人材獲得・活用に関する組織作りが、海外市場参入を可能にしたといっていいでしょう。いまでは同社の受注先は韓国企業も含めて、120社ほどに上っているとのことです。
現在、日本国内の市場は人口減少や大手企業の海外展開により、縮小の一途をたどっているといえます。こうした中で、次世代のリーディング産業の必要性が声高に叫ばれています。新聞紙上で、「次世代自動車産業」や「新エネルギー産業」といった言葉を見ない日はありません。また、最近では海外市場への参入もうたわれるようになってきています。ただし、筆者は短絡的に「次世代自動車産業しかない」と判断することは受注先である大手セットメーカーへの依存であり、非常に危険なことだと思っています。
ヤマナカゴーキンは、新規受注獲得を可能にする「組織作り」を長期的な視点で展開してきました。その結果として、ハイブリッド車に参入したのです。ハイブリッド車に参入しようとして組織を作ったわけではありません。
日本では戦前から現在にかけて、繊維産業、造船産業、鉄鋼産業、電気電子産業、そして自動車産業といった形でリーディング産業が変化していきました。その都度、金型をはじめとする国内基盤技術産業は柔軟に新たな産業に対応していった歴史があります。言葉を変えれば、日本の中小モノづくり企業には変化への柔軟な対応力が内在的に備わっているはずなのです。そうした変化への柔軟な対応力を十二分に発揮できる組織作り、それがヤマナカゴーキンの経験から学べることではないでしょうか。
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