京セラといえば、その独自の経営方法「アメーバ経営」によって成功を収めた企業として、本フォーラム読者にもよく知られているところだろう。創業者 稲盛 和夫氏自身による著書『アメーバ経営』のほか、経営論の専門家らも注目する経営方法だ。
セッションに登壇した京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ICTサービス事業本部 本部長 土器手 亘氏の解説から借用すると、アメーバ経営の特徴は以下のようになる。
特に、製造部門も利益に貢献する部門である、とみなして指標を管理するという手法は、原価管理の側面からも、PSIの観点からも、製造現場担当者に自発的に改善を意識させるための仕組みとして、非常に有効な方法といえる。
こうした経営手法をとる京セラも、情報基盤は、当然ITシステムを活用している。この京セラのアメーバ経営を情報システム面から支えているのが、京セラコミュニケーションシステムだ。同社はグローバル展開する京セラのすべての拠点のシステム構築を担当している。当然、アメーバ経営の本質を理解したうえで、「その特性を最大限に生かすべく、京セラと共同で作り上げてきた」(土器手氏)ものだ。
当日はセミナーと同時に、日本インフォアと京セラコミュニケーションシステムが製造業の連結経営を支援するERPソリューションの分野で協業することを発表した。
部門別での採算を重視するこの経営方式にとって、Inforの拠点・部門ごとの特性に合った柔軟さを持つシステムと、複数元帳による管理方法は非常に親和性の高いものだ。
具体的な組み合わせとしては、Infor ERP LNが提供するグローバル規模での生産・販売活動支援機能(生産管理、在庫管理、原価管理などの業務支援システムおよびSCM、EDIなどのB2Bインターフェイス)と、The Amoebaの提供する経営計数の一貫性を維持管理するプロセス群や、部門別採算制度や月次決算を可能にする仕組みを、SOAインターフェイスで接続、相互にデータを流通させることで、グローバル経営と統一された経営計数による部門別採算の双方を実現する。
また、The Amoebaを組み合わせることで、先の記事で紹介したInfor MyDayインターフェイス上で、Infor ERP LNの提供する情報とあわせて、京セラコミュニケーションシステムが提供する連結経営管理情報も同時に管理できるようになるため、連結経営情報が迅速に可視化される利点もある。システム構築に際しては、同じく京セラグループである、KCCSマネジメントコンサルティングがサポートを行っていくという。
京セラコミュニケーションシステムでは、同社のデータセンターサービス「D@TA Center」を利用したSaaS型のサービスも提供するという。SaaS型のサービスであれば、保守・運用コストの負担の低減が期待できるはずだ。
沖電気工業ではInfor ERP LNをベースとしたテンプレートを独自に開発、現在までに40社以上の導入実績を誇っている。当日は法人事業本部 営業第3課 増渕 孝一氏が登壇、Infor ERP LNベースのテンプレート提供について紹介した。
増渕氏によると、同社が行っているテンプレート提供は、そもそも自社工場への導入ノウハウがベースとなっており「生産管理を中心としたシステム構築のノウハウ」が提供されている点に特徴があるという。
当日は、導入企業である医療系精密機器メーカー アロカの情報システム部 部長 林 知里氏も登壇、沖電気工業と共同で作りこんできた同社システムの概要も紹介された。
増渕氏によると、沖電気工業では今後、プライベートクラウド環境でのサービス提供などの、保守・運用コストがより低く抑えられるサービスへの展開を検討して行く予定だという。
当日はこのほかにも、プロセス系製造業向け、医薬・食品系製造業向けにもそれぞれセッションが設けられたが、それらのセッションの締めくくりとして用意されたのが『グローバル競争に勝ち抜く! ビジネス・イノベーションの実現に向けて〜組織能力を高め、IT化でイノベーションを加速させる』と題した講演。登壇したのは、アットストリーム 代表取締役 平山 賢二氏。氏は製造業の経営に関する書籍なども複数執筆する、事業戦略・モノづくり改革のプロフェッショナルとしても知られる。
セッションでは平山氏が撮影したムンバイのとある工場の写真が示された。写真は、非常に簡素な作業場のもので、一人のランニング姿の男性が汗を流しながら作業をしている姿が写されていた。
「皆さん、この写真から何を作り出しているか、分かりますか? この工場では英国の一流企業向けにペンを製造しています。1日数千本の生産能力があります」(平山氏)
写真の雰囲気から、失礼ながら粗悪な品質のものではないかと疑ってしまったがそうではないという。
ここで製造されているペンは品質も十分に考慮されており、インクには書きごこちを検証した結果、ドイツの一流企業のインクしか採用していない非常に質のよいものだという。
「日本企業がこれと同様のものを製造しようとしたらどうしますか? おそらくホコリの付着を気にしてクリーンルームを設置するかもしれません。直射日光や外気の影響を嫌って窓などは設置しないか締め切ってしまうはずです。工場では作業服を着せるでしょうし、樹脂を冷やすのには専用の油を用意しようと考えるでしょう。しかし、それで、彼らの作成している製品にコスト面で勝てるでしょうか?」(平山氏)
平山氏いわく、こうした新興国企業との競争に勝つには「裏の競争力」を磨かなければ、表の競争で勝てないという。では、裏の競争力とはなにか。
それは、変化に対応できる人材、継続的改善による持続的成長プロセスの実現、オペレーションスピードと低コスト化などによって裏付けられる、製品そのものには出てこない企業力そのもののことだという。
平山氏は、裏の競争力を強化には、企業内にある見えない知識・経験などのナレッジの管理、グローバル化時代に対応した市場・製品に拠点軸を加えた3軸による管理が重要とし、そのためには、組織能力を高めたうえで効果的なIT投資を行う必要があるとした。
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先行きの見えにくい景況から、システム投資を行いにくい状況が続いている企業が多いことと思われるが、本セミナーで示された製品・事例は、短期間・低コストでグローバル化に柔軟に対応するものだった。コスト削減と同時に、先手を打つためにいまできるIT投資とは何かを考えるうえで、非常に有意義な1日となった。
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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