なんとあれから、自分なりの使い方を発見し、だんだんうまく使えるようになってきたとのことだった。ただ、そう実感するまでには、松浦氏に説明を受けてから3週間ぐらい掛かったとのことだ。徐々に慣れてきたというよりは、はっと気が付いたら慣れていたという感覚だったようだ。
「3Dマウスのショートカットキーの有効活用と従来のマウスとの割り振り次第で、とても使いやすくなり、作業時間も早くなったと思います! 特に良く使うアイコンを割り当てて、またコントローラ(画面の回転)と連動して使うコマンドを3Dマウスに割り当てることでコントローラの便利さが分かります。当初、左手での操作は難しいと感じていましたが、ショートカットなどの機能を3Dマウス(左手側)に設定することで自然と使いやすくなりました」(木下氏)。
なお割り当てたショートカットは、アセンブリ上での部品編集、合致、距離測定などだという。また、部品単体の編集だけではなく、アセンブリの編集も楽になったとのことだ。
1カ月前のあの反応から、非常にあっさりと一転してしまった。長く使い続けてもらうことで操作そのものに慣れてきたことと併せ、松浦氏から操作のアドバイスを受けたことも非常に大きかったようだ。
2カ月経過時点では、ようやく操作に慣れてきたと感じたところ。操作感覚は、もっともっと馴染んでくるのかどうか? もう少しの間だけ、評価機を預けてみることにした。
その後、試行錯誤してカスタマイズした設定がなぜか削除されてしまい、デフォルト設定に戻ってしまったという。以後は再設定が面倒になってしまい、デフォルト設定のまま使い続けていたとのことだが、操作そのものに慣れてしまったせいか快調だったという。かつて感じた、コントローラ操作で指がつりそうな感覚もなくなったとのことだ。
左手での3Dマウスの操作が出来るようになったことで、右手での別作業が出来るようになったという。プロジェクターなど大画面で大勢を前にしてのプレゼンテーションでも便利に使えたとのことだ。左手は3Dマウスで回転、拡大などを行い、右手ではレーザーポインターで説明、またはメモ書きなどに使う。3Dマウスは設計の作業以外の場面でも活躍した。
「ちょっと。これ、いつまで使ってていいんですか? 返したくないんだけど……」と木下氏はこぼした。使い始めて早3カ月、同氏の業務の中に3Dマウスはすっかり溶け込んでしまったようだ。ただ残念ながら、夏の終わりとともに、同機の評価もおしまい、おしまい。
「あくまで私が使用した限りでの話になりますが……自分の使いやすい設定にもって行くのに時間はかかったけれど、それさえ上手に出来てしまえば、左手でも違和感なく操作できるようになりました。また、作業を両手に振り分けることで確かに、右手の負担がなくなり肩も楽になったように感じます」(木下氏)。
作業の疲労感緩和については、作業を両手に振り分けることによる負荷分散の効果もあるかもしれないが、記者は操作時の姿勢が正面を向きやすいことも関係しているのではないかと思う。通常のマウスの操作では、腰は正面に向いていながら、腰から上はやや右斜め前方を向く形になる。これは左肩、首筋の左側面に非常に負担が掛かる姿勢だ(もちろん、その度合いは人によると思うが)。
そうはいっても、やはり左手でコントローラを動かすのことについては、人による向き不向きがありそうだというのは、3カ月経った時点でも感じたことだという。「微小な回転動作などを必要とするときなどは、……もちろん、これも個人それぞれの慣れの話かもしれませんが、右手では通常のマウスを使った方が、作業が早く正確に出来ることはありました」(木下氏)。
3Dマウスの操作習得は、スポーツを習得する感覚に近いものがあるようだ。まず、ちょっとした 形やコツを伝授してもらうことで、とにかく感覚に慣れていく。それに、人による得手不得手の差が出そうな点も、まるでスポーツのよう。
最後に木下氏はこんなこともいっていた。「左手を使うことで脳の活性化にも繋がるのでは!? 3Dマウスを使っていると、なんだか頭がさえますよ!」(木下氏)。普段活発に使わない神経を使うことになるので、確かにそんな作用はあるのかもしれない。
すでにユーザーがたくさんいる米国では、3Dマウスのユーザーのコミュニティができていて、そこで意見交換が行われているそう。しかし売り出してからまだ間もない日本でそのようなコミュニティが育つのは、当分先ではないかと松浦氏はいう。木下氏が松浦氏の説明を受けたことで、評価の結果が一転したことを考えると、いくらシンプルなデバイスといっても、ユーザーサポートは大事なポイントといえる。同社では、電話や対面でのユーザーサポートを行っているとのことだが、活用例のようなお手本のいくつかがWeb上など気軽に見られるところにあっても嬉しいかもしれない。
かつてのドラフターを使った手描きの機械製図は、だんだん2次元CADによる製図へと移り変わっていた。さらに多くのCADユーザーは、2次元CADから3次元CADへと乗り換えていった。一昔前のCADでは、タブレットという複数の操作キーが並んだキーボードに似たデバイスを使い数値入力していたが、それがやがて、現在のようなマウスと画面上のアイコンでの入力へと移り変わっていった。慣れ親しんだ環境や物、考え方を変えるというのは、人間にとって生理的に抵抗があるものだが、それをどうにかこうにか乗り越えて、世の中や技術は発展してきた。
かつてロジクールでマウスの営業をしていた松浦氏は、こんなことも話していた。「いまや一般的に使われているマウスだって、世の中に出た当時は受け入れられなかったんですよ。キーボードだけで可能な操作をわざわざ両手に分けるなんて……といわれました。それがいま、たいていのパソコンに付いています。新しいものは、なかなか受け入れてもらえないんですね」。松浦氏はそういう時代も見てきているからこそ、今後の3Dマウスの展開にも期待しているという。
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