CADの3次元モデルをゲームのように操作できる3Dマウスの新製品を現役の機械設計者が3カ月間試してみた。
3D コネクション(3Dconnexion)は3Dマウスという一風変わったデバイスを開発・販売するメーカーだ。同社の3Dマウスは、3次元CGのビュー操作をしやすくするために考案された入力デバイス。同社はもともとLogitech(日本法人名 ロジクール)の一部門だったが、3DマウスがLogitechのほかの製品と比べると顧客ターゲットも使用方法もやや限定されたものとなることから、子会社として独立したという。
「宇宙船で大きなマニュピレータ・ロボットがアームを使って作業する様子を最近テレビでもよく見かけるようになりました。そういった作業をするロボットにも使われていた6軸センサの技術を応用して、当社の3Dマウスが作られました」と3D コネクション 日本支社長 松浦 武敏氏は説明した。
同社の3Dマウスにはさまざまな型が存在するが、その中で「SpacePilot」シリーズは3次元CADの操作に特化して作られたもの。ぱっと見た感じでは、いったいどう使うものなのかよく分からない……。
この3Dマウスの中央に配置された円柱状のコントローラ(6軸センサ制御)で3次元モデルのビューを動かし、その周囲に配置されたボタンのうち、左側にある数字キー5個には、モデリングコマンドの「押し出し」などよく使うキーを割り当てて使用する。ほかキーボードにもある「ESC」や「CTRL」、「ALT」「SHIFT」などのキー(左側)、正面や側面など固定ビューがいくつか登録してあるキー(右側、変更可)がある。液晶画面の両脇にあるツヤのあるキーは、その画面を操作するためのもの。
通常の3次元CADの操作では、モデルをぐるぐるとフリーで回すにはキーボードのキー、マウスのクリックやドラッグの組み合わせで行う(CADの種類や設定により異なる)が、側面や正面、決まった角度でのアイソメ表示など、固定した表示方向の切り替えは、画面上のGUIを使用する(マウスのクリック)か、キーボードのショートカットを使う。つまりこれら従来の操作を3Dマウスですべて行えるということだ。
3Dマウスを左手に構え、通常のマウスは右手に持つ(右利きの場合)。キーボードを合わせれば、使う入力デバイスが3つということになる。とにかくいままでない感じでユニークであり、存在そのものが興味深い。
キーボードとマウスでの操作に慣れたユーザーにとっては、一見、違和感を覚えそうだが、同社が行ったユーザー190人を対象にした調査では、その8割が2日以内で3Dマウスの操作を「快適に感じる」と回答しているという。
上記結果から素直に考えれば、非常に画期的な道具だと思われる。本体の価格は、新製品の「SpacePilot PRO」で9万9800円だが、同社によれば、3次元CADの操作を効率化することで作業負荷を減らし、作業にかかる工数も減らせることで、短期間でデバイス費用を回収できるとしている。
しかしこの結果は、欧米のユーザーが対象になっていると同社はいう。まだ本格的なセールスを始めたばかりである日本のユーザーは含まれていないとのことだ。果たして、日本人の設計者が使ったとしても、同じような意見が挙がるのかどうか。
記者自身で試してみたいものの、自分のパソコンにはSpacePilotが対応する3次元CADが入っていないし、そもそも設計業務に従事していない。本稿を執筆するにあたり、記者自身よりも、実際に設計業務に従事し3次元CADを使っている人に、3D コネクションからお借りしたSpacePilot PROの評価機を託して、しばらく実際の業務の中で使ってみてもらったほうがいいと考えた。
今回、評価機を託したのは、東京 上野にある設計事務所 ケイツーエンジニアリングで、機械設計を担当する木下 修一氏と大川 康晴氏。両氏は、機械設計のほかにも、意匠設計や商品カタログのCGの製作まで行う、いわゆる3次元CADのエキスパートだ。
説明書は英語版で簡易なものが用意されている。マシンに3Dマウスを挿し、ドライバをインストールすれば、セッティングは完了。ショートカットに割り当てるコマンドは、あらかめデフォルトで設定してある。「基本的にはドライバをインストールしてそのままでも使えるようになっています。デフォルト設定も実務で使いやすいものが選ばれています」と松浦氏はいう。
「これ、面白い!」と前向きに評価を引き受けていただいた木下氏と大川氏。忙しい業務の中でも、3Dマウスの操作をなんとか習得できたと報告を受けた。ひとまず、しばらく使い続けてもらったうえ、意見をもらうことにした。 なお両氏は右利きなので、以後は右利き基準の評価になる。
編集部注:SpacePilot Proには、実際、メールや動画の閲覧ができる機能が付いています。ただ、今回の評価ではそれらの機能は対象にせず、3次元CADを操作するデバイスとしての評価を中心とさせていただきました。
本機を引き渡してから1カ月が経過……。その回答はとても厳しいものだった。「これは本当に、3次元CADを扱う設計者が使ってみて、よいものだと評価しているものなのか」という辛口な疑問が投げかけられた。
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