NASAの次の10年を支える検証環境とはモノづくり最前線レポート(11)(2/2 ページ)

» 2009年08月25日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]
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システム構築力を基盤としたコミュニケーション支援

 実はwebスペースをベースとしたコミュニケーションインフラとしては、Microsoft SharePoint Serverへの対応が発表されたばかり。これいついては「このプロジェクト発足当時にMicrosoft SharePoint Serverが合ったらより早くインフラ構築を行えたのではないかと思います。NESC IIを構築する際にはぜひ採用したい」と語っている。

 読者の中にも利用者は多いだろうが、Microsoft SharePoint Server(以降、SharePoint)は、Webベースの情報共有アプリケーションだ。Windchillでは、航空・宇宙器機開発のような巨大なプロジェクトはもちろんだが、よりシンプルなシステム規模の企業への対応も強化している。SharePointであれば、インフラ部分でSharePointの仕組みを採用することで、容易なシステム導入が可能になるほか、コミュニケーションプラットフォームとしての機能もすぐに利用可能になるなど、利点が多い。特に中堅規模のPDM/PLMとしては非常に有効な選択肢の1つとなるだろう。

 別途開催されたPTCの役員とのプレスミーティングでもSharePointとの統合について、記者からの質問がいくつか出された。ご存じのように、コラボレーションというキーワードはダッソー・システムズも打ち出しているテーマだ。今回、Microsoft SharePoint Serverとの連携に見られるようにPTCも同様のコラボレーションプラットフォームの提供を開始している。では、両社の違いはどこにあるのか。質問に答えたHeppelmann氏の回答は至極シンプルかつ明確なものだった。

 「まず、システムアーキテクチャに対してのスタンスが全く異なっている点を強調したい。他のCADベンダーが発信するコラボレーションプラットフォームのほとんどはクローズドなアプローチを採用しているが、PTCはあくまでもオープンなアプローチである、ということだ。SOAアーキテクチャに対応でき、会計システムとも連携できるという強みを持っている。ここが決定的な違いだと言えるだろう」と、システムベンダーとしての技術力の高さをアピールしている。

 また、会期中にも披露されたフランスでの航空宇宙開発事業での案件獲得について、別途、James Heppelmann氏に伺ったところ、「当社のSOAシステムへの対応は非常にスマートな実装が可能になっている。実際に、こうした案件は非常にクリティカルな要件を要求されるが、すべての要件を完全に満たしたのは当社だけだった。この結果を非常に誇りに思っているが、一方でそれは当然のことという思いもある。というのも、当社はSOAアーキテクチャへの理解度や実績において、もともとアドバンテージを持っていたと自負している。顧客との話のなかでよく出てくるのは、各ベンダーの製品とも同様の機能が実現できるようだが、その違いはどこにあるのか、といった問い合わせだ。話を聞くぶんにはどれも同じに聞こえてしまうところもあるだろうが、実際にシステム評価を行っていただくと、その違いを理解いただけるようだ」とのこと。

同社製品のシステムアーキテクチャについて語るHeppelmann氏 同社製品のシステムアーキテクチャについて語るHeppelmann氏

 複雑なシステム同士をセキュアに連携したうえで、膨大なデータを安定的に処理、高速なレスポンスを実現するためには、相応の技術力が必要だ。フランスの航空機開発といえば、フランス国内ベンダーの提供する設計環境が積極的に利用されている印象が強い。無論、すでに導入されているPDM、3次元CAD製品などは他ベンダーのものも多いはずだ。にもかかわらず、それらのシステムを統合したインフラを構築する際に、同社が唯一、すべての要件をクリアした点が高く評価されたことは特筆に値する。

KTM 四輪への進出と、事業戦略にマッチした仕組み作りの妙

 もう1つ、注目されていた事例としては、オレンジ色のボディカラーが目印ともいえるオーストリアを拠点とする自動二輪メーカーKTMのセッションだ。KTMの歴史は古く、1950年代から製造を開始している。1製品当たりの部品数だけでも相当数になる自動二輪の部品設計すべてを、Pro/ENGINEERを使い、3次元で設計しているという。

 登壇したKTM Harold Plockinger氏によると、同社では5年ほど前から製造プロセスの標準化活動を開始し、全社的な製品開発〜製造プロセスの効率化を進めてきた。

 まず、同社ではWindchill PDMLinkを含むPLM製品群を社内インフラ「PES」を導入した。従来、部品サプライヤとのデータ交換は単純なFTP通信によるファイル転送によって行っていたが、Windchillベースでの情報交換が可能になったため、Webベースで管理が容易になったほか、図面以外の情報もあわせて交換できるようになったため、サプライチェーンマネジメントの側面を考慮した仕組みが実現した。

 Plockinger氏によると、KTMの設計はすべてPro/ENGINEERやWindchillによる情報共有を行い、またそのプロセスも標準化しているが、唯一、構成設計の段階では標準化しないことをポリシーとしている。

 「構成設計の時期はプロセス化しないことで、設計者の自由度を高めるようにしている」(Plockinger氏)

 開発段階の効率化、プロセス化については、さまざまな見解がある。試作フェイズまでの含めて標準プロセス化を行うことで効率のいい市場投入を行える、という視点がある一方、ニッチなニーズに訴求する製品開発においては、一定の自由度のある中での開発が必要であることは、自明となっている。KTMの場合は後者の製品戦略を採用していることから、構成設計段階のプロセス化は同社製品戦略からして合致していないために、自由度を与えているということだ。

 同社は四輪の世界への参入を発表している。このように飛躍していく背景には、事業戦略とマッチした仕組みづくりと、目的に合致したシステムインフラ構築による技術革新力が大きく寄与しているのではないだろうか。

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