米オバマ政権のグリーン・ニューディール政策によって、にわかに注目を浴びている次世代電力網「スマートグリッド」の海外最新動向と国内先進企業の取り組みを紹介するセミナーが開催された。
インプレスR&Dは7月30日、自然エネルギーの利用など多様化する発電システムを送電網に効率よく取り込むため各国で研究が進む「スマートグリッド」にスポットを当てたセミナー「スマートグリッドとITが切り開く未来」を東京国際フォーラムで開催した。
スマートグリッドは発電所から末端の企業・家庭までを繋いでいる送電網を、ITを使って分散化や双方向化させるという次世代電力網のコンセプトだ。家庭での電力消費をリアルタイムでモニタリングして必要なだけ発電したり、太陽光発電や風力発電で作り出される不安定な電力を電力網に取り込みつつ安定した電力を供給したり、電気自動車を蓄電池として利用したり、といったことが可能になるとされている。
基調講演では経済産業省 商務情報政策局 情報経済課課長補佐の伊藤慎介氏が登壇、「(スマートグリッドは)単に電力網だけにとどまらずありとあらゆるものに影響を与える可能性がある。この認識を皆さんと共有したい」と前置きして、海外のスマートグリッド事情とその背景、そして今後日本としてどのようにスマートグリッドをとらえるべきかを、これまで高い技術を持ちながら市場で存在感を発揮できていない日本のエレクトロニクス産業と対比させつつ話した。
スマートグリッドに関しては、米国はグリーンニューディール政策の1つとして45億ドルの予算を計上するだけでなく、州や企業レベルでも大きな予算で研究を進めている。また、EU 各国もそれぞれがさまざまな取り組みを始めているが、いまこうした国々がスマートグリッドの研究を進めるのは、「次のマーケットを取りに行く競争が始まっているから」なのだという。欧州では議論がなされてコンセンサスが得られてから始めたのでは間に合わないという声も上がる中、「日本は世界のスピード感について行けるのだろうか、この感覚を皆さんと共有したい」と聴衆に呼びかけていた。
伊藤氏が日本の産業が今後の世界市場で勝ち残るための鍵として強く主張していたのは、「プラットフォーム戦略」と「やみつきまんじゅう戦略」の2つだ。前者というのは、完成品全体をコントロールできるコア部品に知財やノウハウを詰め込み、コア部品と周辺との接続を標準化した上でキット化し、技術力はないが市場への新規参入を望む新興国のセットメーカーと提携するという、インテル式の戦略を指している。また後者は、自分の強みである知財を徹底的に死守しつつ、それと繋がる周辺のインタフェース部分はどんどん標準化して世界中にばらまくことで、普及させ知財を収入源とする戦略だ。
ものづくりは途上国に任せ、日本は途上国がものづくりできるようコア部品の提供や製造ノウハウを伝えるというソリューションに移行するということと、新技術の導入に当たっては既存の制度や慣習に縛られる先進国よりも参入障壁の低い途上国に最新技術や最新システムを導入する「逆雁行型モデル」の推進も重要という。
スマートグリッドが登場すれば、電化製品や自動車などすべてが「端末化」することになる。これを意識したものづくりをしなければまたほかの国の産業の後塵を拝する形になるのだという。伊藤氏は「欧米の動きは脅威だが日本にもチャンスはある」という。「太陽光や風力という自然エネルギーを大量に導入していくことが低炭素社会の基本原則。産業革命以降自然にどう立ち向かうかという観点で発展してきたが、自然のサイクルに合わせたライフサイクルに変えなければならない。これには縄文時代から江戸時代まで自然との協調というライフスタイルを続けてきた日本の先人の知恵を最新の技術と融合させることを考えるべきだ」と述べる。
「地域で発生する自然エネルギーの供給状況に合わせて、電力の変動分はなるべく地域で吸収するエネルギーシステムを作ることが必要。電力会社が変動分をすべて吸収するというのでは無理がある。電気自動車を普及させ蓄電池として利用したり、ネットワーク化した家電などによって電力消費スタイルを個々人のライフスタイルに合わせてパーソナライズするなど、電力消費を抑えるだけでなくさらにそこから新しいサービスを生み出す方向で考えていくべき」という。
「低炭素社会の実現に向け、世界のトップ企業は大きな投資と熾烈な競争を開始している。次の新しい価値を生み出すための投資を官民力を合わせて進めていかなくては取り残されてしまう。米国のスマートグリッドとは、電気の利用と発生に関係するすべてをネットワーク化するエネルギーのインターネットのようなもの。これに積極的に関与していかなければ、日本の製品やサービスだけが取り残されることになる。日本は自然のサイクルに合わせた新しいライフスタイルを世界に提案できる、文化的歴史的なポテンシャルを日本は持っている、それを製品に組み込んで世界に提案していくことで、環境問題の解決に向けて世界をリードしていきたい」(伊藤氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.