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» 2009年03月18日 00時00分 公開

競争戦略の優劣を診断する5つの条件とは?マイケル・ポーター教授のものづくり競争戦略(3)(4/4 ページ)

[上島康夫,@IT MONOist]
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不況期における企業戦略

 さて最後に、現在の経済状況におけるいくつかのキーポイントをお話ししましょう。恐ろしい景気後退に直面して、多くの企業は非常に神経質になっています。何事にも慎重な姿勢になり、特に新規の投資には大変慎重です。控えめで、資源を節約しようとしています。とても深刻な経済の下降が起きています。しかしこれは、ここにお集まりの皆さんの責任ではありません。事の責任はごく一部の金融サービス企業にあり、企業の財政問題ではなく資本市場の問題です。

 この景気後退がどこまで続くのか誰にも分からないというのが真実のところです。こういった環境下で、ものづくり企業はどんな戦略を持てばいいのでしょうか。皆さんのお役に立てると思われる施策をいくつかお教えしましょう。私が指摘するポイントは、とても明確です。私は世界各国で起きた景気後退をいくつも見てきた経験がありますので、参考にしていただきたいと思います。

 第1:このような環境下ですべて企業が考えなくてはならないのは、前向きな目標を持つということです。あれはしてはいけない、何かを削減しよう、これは中止しよう、などといった後ろ向きな目標はダメです。もっと有益な目標を達成すべきなのです。前向きな目標を掲げれば、社員のやる気を引き出せます。前向きな活動を示せば、彼らは自分の会社はこんな時期でも前進しようとしていると感じるでしょう。これは非常に重要です。

 第2:こういうときこそビジネス基盤を理解すべきです。あなたの企業はどこからお金を得ているのですか。本当にお金を生み出してくれている製品は何ですか。あなたの企業を成功に導いてくれる顧客は誰ですか。これを理解するには大変複雑でコストを伴う分析を必要とするのですが、こんなときこそ分析をしてみる価値があるのです。こういう時期は、考え方にもいくらか融通が利くようになるものです。ですから、自社のビジネス基盤を再認識し、必要なら修正を行うのに適しているのです。

 第3:再び戦略に焦点を絞ることです。経済が好調なときには、新しいことに挑戦したり、たくさんの未知の事業に手を出したりしますが、不況のときには何にも増して自分たちの戦略とは何かに集中すべきです。そして、中心となる戦略以外は切り捨てるのです。続けていて損はないものでも、中核となる戦略から外れている活動は捨てるべきです。不況期には、普段できないようなことをやるべきです。こういった時期には、社員は従順になるものです。サプライヤや販売チャネルとの取引などにも融通が利くようになります。ですから、ほかの時期ではできなかったことを、この時期にやってしまいましょう。危機的状況をムダにせず、有効に活用しましょう。経済危機といえども、それが良い効果を生む側面だってあるのですから。

 第4:こういった時期には、皆さんの製品がもっと安い代替製品に取って代わられたり、サプライヤが変わったりと、業界内の関係が流動化するかもしれません。しかし、そういった混乱に対して過剰な反応は禁物です。景気後退局面であっても、その最も大きな影響を受けている業界であってさえ、顧客は相変わらず商品を買っているんです。顧客というものは、結構な購買力を持っています。顧客はこの時期、普段と違う行動を取ることもありますが、その混乱に対応しようと顧客に対する従来のアプローチを変える必要はありません。売り上げを確保するためにもっと現実に即した売り方をしたいと思うでしょう。しかし戦略を変更してはいけません。市場が弱含んでいるときに起きることは一時的な現象ですから、業界の動揺に過剰反応してはいけません。

 第5:短期的な株価の変動は忘れましょう。株価は皆さんのあずかり知らぬ力に反応しているだけですから、心配しても仕方ないのです。難しいことかもしれませんが、心配する必要はないのです。まぁ、日本の経営者の方はアメリカ人より株価を気にしていないから大丈夫でしょう。

 第6:それまでになかったような好機が急に表れてくるのを見つけて利用しましょう。こういう時期には、それまで考えもしなかった現象が起きてきます。2〜3年前とはまったく異なる環境です。ですから、小心者になってはいけません。このめったにない機会を好機としてつかまえましょう。こんな時期にしか訪れない機会なのですから。

 さて、本日はご静聴いただき、ありがとうございました。皆さんに戦略に関する明快なアイデアをお伝えするのが私の目標でした。これで私の講演を終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

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 全3回にわたってお届けしたポーター教授のものづくり戦略論はいかがだっただろうか。厳しい経済状況を乗り越える製品戦略立案の参考にしていただきたい。(連載完)

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