オランダNXP Semiconductors社は2008年6月、東京都内で車載半導体事業に関する記者説明会を開き、欧州連合(EU)の車両緊急通報システム「eCall」やオランダの次世代通行料金収受システム向けに開発した、GPS/GSM(global system for mobile communications)通信モジュール「ATOP(automotive telematics on board unit platform)」を公開した(写真1)。
ATOPは、ARM9コアやGSM/GPRS(general packet radio service)のベースバンド回路を統合したプロセッサを中心に、GPSチップ、ARM7ベースの通信インターフェースコントローラなどを搭載したモジュールである(図1)。大きさは横30mm×縦25mm、厚さは3mm以下で、そのまま表面実装可能なパッケージとなっている。同じ機能を持つ既存モジュールと比べて、実装面積で約1/20という小型化に成功した。「表示部、入力、通信インターフェースなどを含めた最終製品の大きさは、日本のETCユニットと同程度になるだろう。最終製品の価格も、既存製品と同等の250〜300米ドルから約100米ドルにまで抑えられる。さらに、小型化とシステムの簡素化により、組み立て不良率が従来の1/5まで下がる見通しだ」(NXP社)という。また、2010〜2011年をめどに、3Gによる高速通信が可能な「ATOP_3.5G」の開発も検討している。
NXP社オートモーティブセールス&マーケティング担当バイスプレジデントのWillem Bulthuis氏は「モバイル通信やスマートカードのセキュリティ技術といった当社の技術を集約し、車載向けの品質に仕上げた。ATOPを使った製品は、eCallやオランダの次世代通行料金収受システムでの応用などが考えられ、2009年から欧州の自動車に広く採用が始まるだろう。欧州の自動車メーカーへの展開を拡大している日本の自動車部品サプライヤにも注目してもらいたい」と語る。
EUでは、欧州委員会を中心に交通事故による死者を減らすための各種取り組みを推進している。eCallは、事故発生時にGPSで取得した位置情報を、GSM通信により緊急通報センターに通報するシステムである。事故直後の緊急対応による人命救助の施策として、2011年からは自動車への標準装備が義務化される予定だ。また、オランダの次世代通行料金収受システムは2009年からテストが始まり、2011年から実運用に移る。ATOPは、両システムに必要なテレマティクスユニットに採用される。「オランダは、走行地域の混雑状態に合わせて車両税を変動させる新制度を導入する予定だ。次世代通行料金収受システムは、通信ユニットから自動車がいつどこを走っていたかという情報を取得して、その自動車にかかる車両税を決定する。つまり、渋滞している地域/時間帯に走行していると高額になり、渋滞を避けるように走行すれば低額になる。データの改ざん防止や、個人情報の保護のために厳しい要求があったが、パスポートや銀行のシステムで採用されている『MIFARE』技術を応用することで製品化できた」(Bulthuis氏)という。
NXP社の車載半導体事業は、2007年に売上高が10億米ドルを超えた。これは、同社の全売上高の17%に当たる。車載半導体の世界シェアは6.4%で、第6位となった。2005年と比べると約0.5%の増加で、競合他社を上回る成長を達成したという。Bulthuis氏は「特に、カーインフォテインメント向けの製品は、世界シェア12.3%で第1位となり、業績向上に大きく貢献した。カーラジオ用半導体では圧倒的なトップの座にあり、世界シェアは40%を占める。この分野はラジオ放送のデジタル化によってさらなる成長が期待できる。これらの好調な業績は、自動車事業に特化したビジネスユニットの設立、直近3年間における自動車関連への開発投資倍増といった取り組みの成果だ。今後も積極的な開発投資を継続する」と説明する。
日本国内の車載半導体シェアは約3%で、第7位となった。日本法人NXPセミコンダクターズジャパン オートモーティブ事業部事業部長の濱田裕之氏は「車載半導体は、日本法人売上高の37%を占める重要な事業であり、今後も強力に展開を図る。2011年には、国内シェアを5%にまで引き上げたい」と語った。
(朴 尚洙)
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