摩擦があると、どうしてエネルギーを失うのかピタゴラスイッチの計算書を作ろう(1)(1/3 ページ)

摩擦によって力学的エネルギーが損失することを理解するためには、まずニュートンの運動方程式をきちんと理解する必要がある。

» 2008年08月25日 00時00分 公開
[岩淵 正幸/技術士(機械部門),@IT MONOist]

誰も教えてくれない事前検討のコツ

 近年の設計現場では「フロントローディング」が注目されています。

 フロントローディングとは、「従来試作や製造段階で作り上げていた品質を上流の設計段階で確保しよう」という思想です。昨今の激しい開発競争に打ち勝つためには、開発期間の短縮が不可欠です。試作の結果を見てから品質確保のための設計変更をするようでは遅いのです。

 しかしながら、掛け声の割には、実際にはあまり実践されていないようです。そもそも、事前検討が困難であるから試作実験によって設計の悪いところを洗い出し、その結果を製品設計に反映して品質向上を図る、という手順でものづくりをしてきたのですから。

 そのような手順に慣れた人たちから見れば、試作前に性能を判断、検討する方法が分からないのです。フロントローディングを進めたいという管理者も、具体的な事前検討の方法は教えてくれません。「自分たちで考えろ!」というばかりです。

 ここでは、ピタゴラスイッチの設計を例に取り、事前検討が一見難しそうなケースでも、力学の基礎知識と、ちょっとしたシミュレーションツールがあれば、機械の性能が簡単に予測できることを解説していきます。

 そして、本連載で紹介するような事前検討のひな型がいったんでき上がれば、次からはそれをベースにして、より改善されたスマートな設計をすることができます。

草太がピタゴラスイッチの計算書を作る

 技術士として設計業務のコンサルティングをしている銀二が、出張のついでに東京で学生生活を送っている甥(おい)っ子を訪ねました。甥っ子の草太は、亜津戸大学 工学部 機械工学科の4年生です。何やら銀二叔父さんに相談したいことがあるようですが?

草太「叔父さん、いいところに来てくれたね。卒業設計で『ピタゴラスイッチを設計・製作し、設計計算書と試作品を提出せよ』っていう課題が出たんだ。でも、どうしたらいいかよく分かんなくて困ってんの。叔父さん、設計コンサルタントやっているんだったら簡単でしょ。ちょっと助けてよ」

銀二「んー、どんな課題だい?」

X年度 卒業設計課題(亜津戸大学 工学部 物田研究室)

図1.1 ピタゴラスイッチ

 図1.1のようなピタゴラスイッチを設計・製作し、設計計算書と試作品を提出せよ。

 A地点から出発したボールは曲線スロープを経てB地点に到達し、直線スロープ1の終端のゲートを通過した後、直線スロープ2に繋留(けいりゅう)している台車のロックを解除する。

 繋留が解除された台車は直線スロープ2を降り、ストッパによって横転し、台車の中のボールがシーソーに落下して、反対側のバスケットボールを跳ね上げ、バスケットの中に入るものとする。

 なお、曲線スロープの出発地点Aの高さHとスロープの底の高さHb、曲線スロープの長さLは図示した値とし、また、B地点を通過するときのボールは極力遅くなるように設計すること。



草太「これを作るのはそんなに難しくないと思うんだ。でも設計計算をどうしたらいいのか、よく分からんのよ」

銀二「面白い課題だね。確かに100円ショップで手に入りそうなものを利用して、あーでもない、こーでもないとかいいながら作れそうだ。しかし、これがもし、遊園地のアトラクションの設計だったら、簡単に試作するわけにはいかないから、ちゃんとした設計計算の裏付けが必要になるな」

草太「課題を出した先生の狙いも、そこにあるみたい」

銀二「で、設計計算の、何が分からないのさ?」

草太「全体的に、分からない。何から始めたらいいのか……」

銀二「まずシステムがどんな構成になっているか見てみようぜ」

草太「システム? なんか大層だね」

銀二「どんなシステムだって、いくつかの小さなサブ・システムから成り立っているんだ。サブ・システムがしっかり設計されていなければ、機械はうまく動かないんだよ」

草太「とにかく、サブ・システムに分解したらいいのか」

銀二「そういうことだ」

草太「最初の曲線スロープが1番目のサブ・システム、2番目は直線スロープ1とゲートかな(図1.2)。ところで、なんでゲートが必要なの?」

図1.2 サブ・システム1から4

銀二「最初のボールは、台車を繋留しているロックを外すために利用されるようだけど、ゲートがないとボールがそのまま通過してしまってロックを外すのが難しいんじゃない?」

草太「なるほど、ゲートでボールにブレーキを掛けて、確実にロックを外そうというわけだ」

銀二「では、3番目のサブ・システムは?」

草太「その台車を繋留しているロック機構かな。で、4番目は台車が直線スロープ2を滑り落ちて、台車の中のボールが落下する部分だ。最後の5番目のサブ・システムが、台車から落ちたボールがシーソーでテコの原理を利用して反対側にあるボールをバスケットに入れるという部分だね(図1.3)」

銀二「ま、そういうところだな」

図1.3 サブ・システム5
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