長い不況を抜け、ようやく明るい兆しが見えてきたニッポンの製造業。しかし、国際競争の激化や消費者ニーズの多様化により、「作れば売れる」時代は過去のものとなった。いかに売れるものを素早く市場投入するかが勝負の現在、PLMという視点から製造業のあるべき姿を考察する。
世界の家電業界では、アップルやビジオ(薄型テレビのベンチャー企業)など米ファブレスメーカーが元気である。ファブレスメーカーとは自社工場を持たず企画・販売・技術開発などを行う会社のことだ。対して垂直統合型の日本型モノづくりの評価は下がり気味の感がある。
しかし、筆者はそうは思わない。アップルやビジオをよくよく見てみると、彼らこそ1980〜1990年代の強き日本のモノづくりを忠実に実行しているからだ。日本メーカーは過去に払った多くの努力と成功体験を引きずって進むうちに、いつの間にか本来のモノづくりを忘れてしまったようだ。日本型モノづくりの復活を願い、今回は売れる製品、もうかる製品を作るための3つの考え方について述べたい。
最近、“製品価値向上”というキーワードをよく聞く。具体的には、設計業務を改革し、社内プロセスを一新しようというものだ。その代表とされるシステムに3次元CADがある。本連載のテーマでもあるPLMについて、イコール3次元CADと勘違いしている方も多い。だが、3次元CADを導入することが直接“製品価値向上”につながるかどうか、筆者は疑問に思っている。
第1回「PLMや3次元CADって本当に効果があるの?」、第2回「3次元CADをめぐる夢と現実を見極めよう」の記事で、3次元CADは形状の作り込みや出図後の検証作業について大きな効果を出すと説明した。しかし、製品の価値向上や価値の作り込みには不十分なことが多いことも理解いただいたと思う。
筆者は、3次元CADを否定するわけではないが、いま日本のモノづくりを復活させるためには、いかにして売れる製品、もうかる製品を造るかがより重要だ。製品が売れなければ、業務効率を上げ、安い製品を造っても意味がないのだ。安く造れるかどうかを考える前に、売れる製品を造ることが重要なのだ。
CAD/CAM/CAEなどの導入は業務効率を向上させ、部門間の連携をスムーズにする。だが、つまるところ人件費や試作費のコストダウンツールでしかない。SCMにしても在庫を減らすツールでしかないのである。
では、売れる製品、もうかる製品とはどのようなものか。それを理解し、実現するには、さまざまなプロセス改革やツール導入が必要となる。しかし、それ以前にモノづくりに対する考え方を変えない限り成功はない。売れる製品、もうかる製品を造るために、図1の3つの考え方を紹介しよう。
ここで1つ、当たり前とは思わずに考えてもらいたいことがある。顧客は製品を買うとき、何に対して代価を支払っているのだろう? 読者にはモノづくりに携わる方が多いから「“モノ(製品)”にお金を払ってくれている」と考える方が多いだろう。しかしそうではない。顧客はモノから得られる利便性、すなわちスペックや仕様にお金を払っているのだ。
携帯電話を例に取ってみよう。顧客が携帯電話に期待するのは、「電子マネーにて簡単に決済ができる」「外で気軽にテレビを見られる」などの利便性(効用)だ。配線の施し方や金型の複雑さにどんなに素晴らしい技術が投入されていたとしても、そこを評価して購入しようとする人はまずいない。考えてみれば当たり前のことだ。しかし、そんな当たり前のことも、日々の業務で目の前に“モノ”が存在し、“モノ”を相手にしていると、どうしてもスペック・仕様のことを見失ってしまいがちではないだろうか。
大胆な発言をすると、「モノづくりの現場から、“モノ”を忘れろ」ということである。すなわち、“モノ“ではなくスペックの視点で考えられるかが大切なのである。
むろん、顧客に利便性(スペックや仕様)を届けるには、形ある“モノ”を完成させなければならない。よって、顧客要求を機能・機構・部品・工程の情報に変換していき、材料・部品を調達し、製品を仕上げる過程のいずれにおいても、本質はスペック・仕様にあることを覚えておかねばならない(図2)。
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.