トヨタ式? いえ、背伸びしない取り組みが正解失われた現場改善力を再生させるヒント(4)(2/2 ページ)

» 2008年04月14日 00時00分 公開
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プロセスの“見える化”から“ECRS”まで

 トヨタ式改善で広まった有名なキーワードに「見える化(視える化)」があります。その意味は、現場の暗黙的な知見や属人化した作業方法などを、たとえ経営者が見ても分かるよう、具体的な表示や説明で可視化していくことです。ムダ削減アプローチの第一歩は、現場のプロセス(=作業工程)の可視化から始まります。

 見える化で押さえるべき点としては、3現主義とともに数値化、定量化があります。定量化の詳細については次回で説明しますが、手元にあるデータだけでは不十分でしょうし、何でもむやみにデータ収集をすると、それこそムダな努力かもしれません。プロセスの変化を知るために物差しと基準を決めて、必要な数値データを採集することが肝要です。

 また生産現場の見える化にもいろいろな手段がありますが、皆さんの身近なものとしては作業マニュアルが挙げられます。最近は電子媒体化され、デジカメで撮影した写真などで分かりやすく工夫を施したものを目にすることが多くなりました。これだけで見える化の目的を十分に果たしているようにも見えますが、「ウチの作業マニュアルは、しっかりしているから十分だ」と思ったアナタ、本当に作業にムリ、ムダ、ムラはありませんか?

 おそらく大半のモノづくり工程は手順化されていて、ISO審査対応の作業マニュアルなども完備されているかもしれません。マニュアルどおりにきちんと作業しなくてはうまくいかないようになっていればいいのですが、マニュアルどおりに作業するとうまくいかないのであれば、困ったことになります。後者の場合、当然作業マニュアルだけでは見える化できていないことになります。

 では、どうしてマニュアルどおりの作業方法ではうまくいかないのでしょうか?

 前回示した現場改善プロフェッショナルにふさわしい「○○深さ」という条件では、「疑り深さ」というのが当てはまります。これはトヨタ式改善でいうところの「なぜなぜ5回」と同種の考え方といえます。例えば作業マニュアルの例では、次のような問い掛けが繰り広げられることになります。

Q1 なぜ、作業マニュアルどおりではうまくいかないのか?

A1 作業マニュアルどおりの作業方法では作業者が不足するから。


Q2 なぜ、マニュアルどおりの作業方法では作業者が不足するのか?

A2 同様の従来品を含めて、想定外の再調整作業が発生しているから。


Q3 なぜ、作業者がマニュアルにない再調整をしなくてはならないのか?

A3 部品αの特性のバラツキが大きいから。


Q4 なぜ、部品αの特性バラツキをなくせないのか?(再調整作業をなくせないのか?)

A4 在庫部品を流用したため、特性をそろえきれていないから。


Q5 なぜ、特性の良いものに切り替えなかったのか?

A5 追加の再調整作業でなんとなくうまくいってしまったから、もったいないと思って……(果たして在庫部品と再調整作業コストとどちらが高かったのだろうか?)。



解決策案 再調整作業が「修正のムダ」なので、部品αの在庫品を使わずに特性のそろった新規部品に切り替える。

 ここまでのやりとりでは、1つの解決策の可能性が導かれたにすぎません。もし最初の問い掛けに対して別の担当者から異なる回答が得られたとしたら、きっと違った展開になったことでしょう。ここでよく考えてほしいのは、ムダ削減アプローチの分析手法では、こうした原因への深掘りが非常に大切だということです。現場改善には絶対的な正解というものはありません。ただそこにある結果を生み出す原因は必ず存在するので、それを見つけてどう対応したらよいかを選んで改善を進めることになります。

 さらにムダ削減アプローチを完結させる段階にきたら、プロセスの“ECRS(イクルス)”を検討します。ECRSとは作業効率化のための手段で、作業プロセスを

  • Eliminate(削除)
  • Combine(統合)
  • Replace(置き換え)
  • Simplify(簡素化)

することを表しています。先ほどの例でいえば、顕在化した「修正のムダ」をなくすために、

  • 再調整作業をなくし(Eliminate)
  • 在庫部品流用を新規部品使用に置き換え(Replace)

ました。この対策を行うことで、少なくともマニュアルどおりの作業遂行を期待できます。ただし今回の対策は「マニュアルどおりではうまくいかないこと」をなくすための“十分条件”にすぎず、再発防止も含めた“必要十分条件”ではないことに気を付けなくてはなりません。

 このようにムダ削減アプローチでは、プロセスの見える化で目に付いたムダをなくすだけではなく、なぜそのムダがプロセスに生まれてしまったのか、その原因まで踏み込んで考えなくてはなりません。つまり「問題解決のスモールステップ化」で示した原因分析や仮説検証をしっかりと行うということです。

 最後に、これまで説明してきたムダ削減アプローチの定石を図2に示しました。

図2 ムダ削減アプローチのイメージ 図2 ムダ削減アプローチのイメージ(© GENEX Partners)

 今回は図2に掲載した工程分析や稼働分析など、ムダ削減アプローチで使う具体的な分析手法まで紹介できないのは残念ですが、またの機会に譲りたいと思います。

 次回は、もう一つの悪さ加減である「バラツキ」を低減するための問題解決アプローチをご紹介します。


筆者紹介

眞木和俊(まき かずとし)

株式会社ジェネックスパートナーズ
代表パートナー

GEでシックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルトとして参加後、経営コンサルタントに転身。2002年11月ジェネックスパートナーズを設立。日本企業再生を目指して企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』(ダイヤモンド社)、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』(ダイヤモンド社)などがあり、中国、韓国、台湾などでも翻訳出版されている。

 ジェネックスパートナーズ
お客さまとともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から「成果を創出できるマネジメント手法の導入」および「人材を競争力の源泉にするためのリーダー育成支援」を行うプロフェッショナルファーム。国内外を問わず幅広い企業、公共団体に対して、数多くの企業変革、人材教育の実績を持つ。



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