製作不可能なステキ意匠を機構に押し付けないで龍菜の3次元CAD活用相談室(4)(2/3 ページ)

» 2008年03月28日 00時00分 公開
[西川@龍菜,@IT MONOist]

ステキな意匠だけど、それ製造できまっか?

 製品開発の現場では、いわゆる「デザイナー」が造形や意匠という立場から、「設計者」は構造や機構という立場から製品設計にかかわっている。本来は両者がバランスよく統合されなければならないのだが、デザイナーは造形や意匠のみ、設計者は構造や機構のみを守備範囲にして、お互いに無関心なところがあるようだ。

龍菜「デザイナーであろうが設計者であろうが、全体を統合して計画・設計できる人が、本当のデザイナーと呼べるのかな。ゆみさんが知っているデザイン部門の人たちは『意匠設計者』だね」

ゆみ「なるほど、“意匠”設計者と“機構”設計者か、そして全体を統合できるのが本当のデザイナーということですね」

龍菜「意匠設計者と機構設計者も製品設計に対するアプローチが違うだけなんだから、もっとお互いのことを知らないとね」

 デジタルカメラに限らず、身の回りにある製品には何かしらデザインされているはずなのに、チョイとおかしいなと感じる製品を見掛けることもある。多分、それらには「全体を統合して計画・設計する」という本来のデザイン思考が足りないのだろう。

図1 ステキな意匠のボールペンだが……

龍菜「ほら、ちょっとこのボールペンを見てごらん」 (図1)

ゆみ「まあステキ。流線形なところが特に」

龍菜「そうだろうか? これで実際に字を書いてみれば分かるんやけど……」

 このボールペンのクリップ部分の端がシャープエッジになっているのだ。そのまま使うと危ないと思ったので、自分でチョチョイと角を落としたのだが、それでもなお尖っている。

ゆみ「指が痛くなりそうですね。お肌が敏感な私には危険です〜」

龍菜「店頭に試し書きのサンプルがなかったので、見た目だけで買ったんだけど、実際に使ってみると不都合なところが分かるものだよね」

ゆみ「どうして、こうなってしまったんでしょう?」

龍菜「ステキな形であることは間違いないけど、ただそれだけなんだ」

ゆみ「大物デザイナー“さん”のサインがしてありますね?」

龍菜「そうだね。でも、成型品で作るんだったら、クリップの部分がシャープエッジになってしまうようなパーティングラインなんて考えられないでしょう」

ゆみ「設計者が悪いということですか?」

龍菜「デザイナー“さん”は“ステキな意匠”を造形しただけ、設計者はそれを忠実に再現しただけ……ってところじゃないかな?」

ゆみ「少し話し合えば済むことなのに」

龍菜「結局は、全体をまとめ上げるだけのスキルを持った本当のデザイナーがいなかったということだろうね」

ゆみ「似たようなことは日々の仕事でもよくありますよ。私も『“ステキな意匠”とはなんぞや』みたいな勉強をしておかないといけませんね」

龍菜「ゆみさんだけではなくて、デザイナー“さん”にも、設計の勉強をしてもらわないといけないね」

ゆみ「ホント、そうですよね」

龍菜「何も、『デザイナーに設計者と同程度の知識を身に付けろ』というわけではない。危険なボールペンに関していえば、『“最終的にどのような方法で製造されるのか?”くらいは考慮してデザインしてください』という感じだ」

ゆみ「それが本物のデザイナーですか」

龍菜「とはいえ……、どうしても、『素敵な意匠=デザイン』と考えてしまう人が多いみたいなんや」

ゆみ「私もそう思っていました。意匠デザインも設計者も、ちゃんと設計してナンボですなぁ」

龍菜「“ナンボ”……って、また大阪弁や!」

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