長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)
筆者の大学では学部3年生にメカトロニクス演習というのを課している。学生は2人1組でチームを組んでから、コンピュータ、A/Dコンバータ、ステッピングモータ、センサ購入費3000円を渡されて「何か面白いものを作れ」といわれる。
ここで学生は、講義で学んだ知識を総動員して、モノ作りを企画・設計・試作する。学生アンケートによると、この演習は5点満点で毎年4.5点以上(平均が3.1点)であり、学生に人気が高い。
ところで、今年度は1つのチームが「バランスゲーム」に挑戦したが、見事失敗した。
これは図1に示すように、板の四隅に設置した力センサから、板上を転がる鉄球の重心点を測定しながらゴム板を傾けて、転がる軌跡を制御する、というオモチャである。鉄球が滑らないように摩擦が大きくなるゴム板を採用した。
ところが、鉄球が水平面で止まると静摩擦力が大きいので、傾きを大きくしないと転がり始めないのである。そして、転がり始めると傾きが大きくなっているので、鉄球は容易に止まらず、板から飛び出してしまった。安定点である速度ゼロを目標にしたのがいけなかった。そうでなければ、いつも鉄球はフラフラ動くことになるが、動摩擦力が小さいので傾きが小さくても動き始めることができ、系が発散することはなかったであろう。
村田製作所が作った自転車ロボット「ムラタセイサク君」では、倒立振り子の安定点をうまく避ける制御を採用している。これはゆっくりと自動車をこぐロボットだが、止まっているときも倒れない。
図2に示すように、自転車が傾き始めたら、胸に付けた円板をモータで回し始めて、反動トルクでバランスを取る。しかし、安定点である最上点に制御目標を設定すると、仮に横から風が吹いていると、釣り合わせるために増速し続けることになり、制御は破たんする。そうではなく、安定点をちょっと過ぎたところを目標にして、安定点を過ぎたら減速させた方がよい。その結果、自転車はいつも左右に振れているが、結果として電池が続く限り、安定を保てる。うまい。
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