最も素直な方法は距離を読む方法である。片方に顕微鏡、片方に定規を置いて読めばよい(図4a)。距離が直接に測れる。
「目で読むのは不正確だ」というのならば、片方にレーザ光、片方にアレイセンサを置いて、すき間を通過してきた光の幅を測ってもよい(図4b)。1μm単位で正確な距離が得られる。
棒と板の間に巻き尺を渡して、それを巻き取りながら回転角を読めば直接的に距離が分かる(図4c)。
板の上に角度計を置いて、仰角を測ってもよい(図4d)。
三角測量から高さが分かる。これらはいずれも「距離を測りたい」という機能に対して、長さを直接測れる距離計という設計解を選んだ。
次に、距離は直接得られないが、別の物理量を測って、距離に変換する手法を考えてみよう。これが距離計かと疑うようなものだが、その別の物理量を「第3物質」として流用するのである。
棒と板の間に各種の「変位計」を挟んでみよう。例えば、棒と板の間の静電容量を測ってもよい(図4e)。
近づけば静電容量は大きくなる。同様に、渦電流(うずでんりゅう)や磁気の強さを測ってもよい(図4f)。
また、超音波やパルス光を入射して反射波が戻ってくる時間からも距離は得られる(図4g)。
それから、入射波と反射波との干渉縞を数えても測れる(図4h)。
音や光のドップラー効果を測れば、近づく速度が分かるが、それを積分すればよい(図4i)。
すき間に空気を流して、その流れの抵抗から距離を推定してもよい。走査型トンネル顕微鏡では、近づく直前の微弱なトンネル電流を測っている。いずれも、測定した物理量から変位を求めるためには、前もって「換算表」を作る必要があるが、きちんと距離は測れる。
設計解は1つではない。筆者の経験であるが、容易に別の解が思い浮かばないときは、「第3物質」が事態を好転してくれる。
筆者の大学では、事故やヒヤリハットの事例を集めているが、やたらと多いのが転倒・転落である。毎年、休業災害が8件程度起きる。特に、50代の事務や技術職員がよく事故を起こす。なぜならば、過去の役所の悪習が続いているからである。つまり、役人は通勤で靴を履いているのに、役所に来るとサンダルに履き替えるのである。そのサンダル履きで走るから、階段や道路の段差でつまずくのである。
設計解は簡単である。サンダル・スリッパの類の禁止である。ところが文化的障壁があるのか、まったく禁止令が無視され、休業災害数は減らない。ここで「無理に守れ!」と命令すると、「当局の横暴だ!」といい返され、ハードな労使交渉が必要になる。実際は、冬でもサンダルという教授もいるから予想外にもめる。
そこで図5aに示すように「第3物質」として上履きを用意した。ヒールストラップが付いているようなサンダルか、側面が穴開きで軽めの靴型の上履きがよい。それを大学で用意する。
喫煙者の吸い殻によるボヤ防止でも同じように図5bに示す第3物質を用意した。禁煙が最も簡単な設計解であるが、これは喫煙者が断固反対を唱える。そこで、定期的な吸い殻掃除を清掃会社と契約した。この契約が「第3物質」である。
「いまの設計解に何かを加える」という頭の動きは有用である。「第3物質(オマケ)を加えよう」とつぶやいてみよう。(次回に続く)
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