製造業DXは「ビジネス参加の条件」に、2023年以降は弾かれる企業が出る可能性も:MONOist 2023年展望(2/3 ページ)
2022年も大きな注目を集めた製造業DXだが、DXによるデジタル技術を基盤とした“信頼できるデータ”によるビジネスの枠組み作りが進もうとしている。2023年はその枠組みから外れた企業がビジネスに参加する権利を失う場面が生まれる可能性も出てくる。
欧州発のデータ基盤「GAIA-X」や「Catena-X」
「GAIA-X」とは、2019年10月にドイツ政府とフランス政府が発表した、セキュリティとデータ主権を保護しつつ、データ流通を支援するためのインフラ構想である。欧州の企業や行政、機関、市民の権利を守るためのデータ保護や透明性、信頼性の担保、相互運用性のあるデータ流通プラットフォームの社会実装を目指すものであり、欧州以外の市場参加者にも参加を呼び掛けている。幅広い用途での利用が検討されているが、製造業関連では、製品ライフサイクルにおけるCO2排出量や廃棄、リサイクルなどに関するデータを、サプライチェーンを構成する企業が相互接続して連携する仕組みなどが想定されている。GAIA-Xの整備に向けて2027年までに官民で1兆円を超える資金が投じられる見通しだ。
この「GAIA-X」の自動車産業版として、開発から製造、販売、廃棄までのプロセスにおける各種製造データや、CO2排出量データなどを連携する基盤として構想されたのが「Catena-X」である。こちらは、自動車産業のバリューチェーン全体を対象とし、2023年の初頭にもサービス開始される予定になっている。ドイツ企業を中心に開発が進んでおり、日本企業では、旭化成やデンソー、NTTコミュニケーションズなどが参加している。
欧州では、この「GAIA-X」構想の下、「Catena-X」と同様に、産業バリューチェーンごとにデータ基盤を構築していく動きが進んでおり、製造産業を対象とした「Manufacturing-X」などの動きも進んでいるという。現状ではこうした動きはグローバルでオープンなものだが、例えば、ドイツの自動車メーカーと取引をするのに、「Catena-X」を通じて行うのが取引条件とされたときに、本当に対応できるのかという点は考えていく必要がある。
さらに、データ基盤を通じた、各種情報の共有が当たり前のようになった場合、「データの品質保証(データインテグリティ)」のような仕組みも必要になる。日本の製造業では、製品そのものの品質は追求するものの、それを客観的に示す仕組み作りやその証明は後回しにしがちだったといえる。それが昨今の品質不正問題において「最終製品においては品質条件を満たしつつも途中検査で改ざんが発生」などの問題が起きる要因になっている。もともと“現場力”とされるように、現場の作業者の創意工夫を取り入れ、改善活動をそれぞれの現場で一人一人が主体性を持つことで、高い生産性と品質を実現してきたのが日本の製造業だ。そのため、人手による柔軟な変化が常に発生し、それをいちいちシステム化や自動化、データ化することができないため、“人のあいまいさ”を容認してきた文化だったといえる。
ただ、デジタル技術が進歩する中で、人の柔軟性や革新性を生かしつつも、これらを内包する形でシステム化やデータ化ができるようになってきた。「できるのにやらない」ということが許されない環境になりつつあるのだ。そういう意味では、人手を介さずに自動で製造情報や品質情報、環境情報などを取得し、それをデータ基盤に収納していくような仕組みを組み込んでいくことが必要になってきている。
加えて、こうした仕組みが当たり前となる中では、データセキュリティの問題も必須だといえるだろう。現状では、複数企業での情報連携を行う仕組みとしてはブロックチェーンを活用した分散型システムなどが検討されているが、こうした対応なども必要だといえる。
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