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その改善力であと何年、会社は存続できますか失われた現場改善力を再生させるヒント(2)(1/2 ページ)

現場改善支援のプロとして、改善プロフェッショナルの育成にこだわりを持ち続けるコンサルタントが贈る現場改善力再生のヒント集。個々人の現場改善能力を3つのタイプに分類し、それぞれに合った処方箋をお届けする。

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モノづくりの現場に共通する改善力とは?

 なぜモノづくりの現場には、改善力が必要なのでしょうか。

 前回の「現場改善力チェックシート」では、

  • 固有技術観点
    1. 改善意欲
    2. マネジメント能力

という3つの評価軸を用いて、タイプ別に分類してみました。もちろん本連載での主題である改善力という観点から評価したわけですが、企業の現場である限り、次の2つが思想の根底にあります。

  • “もうかるモノづくりの仕組み”を作ること
  • お客さまに満足していただくこと

 至ってシンプルで当たり前ですが、この両立を維持し続けることが企業存続の条件となることはいうまでもありません。そしてこの両立のために、前述の3つの評価軸のレベルを上げる必要があるのです。

固有技術

 製造業にとって「固有技術」は、まさに生命線にほかなりません。皆さん自身、あるいは先輩諸氏が作った“飯のタネ”を守り、育てた果実を収穫しているわけです。企業の固有技術には、研究開発した先端技術、ソフトウェアなどの知的財産、製造法など特許登録されたものから、一子相伝のブラックボックス的ノウハウまで、実にさまざまなものが含まれるでしょう。それらを用いたユニークな製品をお客さまに買っていただき、自社が利益を得るという活動を営んでいるのです。

 しかしいくら優れた固有技術があっても、ただそのまま持っているだけでは、いずれ競争相手に追い付かれるか、あるいはお客さまに見放されるかもしれません。そこで、それらをより磨き上げていくための「改善意欲」が必要になります。“カイゼン”という言葉の響きからは、どうしても作業効率向上や不良品排除といった生産ライン限定のイメージを感じるかもしれませんが、決してそれだけには限りません。

改善意欲

 例えば日本には、世界的にも珍しい存在である“千年企業”がいくつか存在します。一般に老舗と呼ばれる“百年企業”まで含めると、世界最大の集積地です。その大半が製造業であり、実は多くが現代の最先端製品に寄与していることをご存じですか? このような老舗企業は優れた固有技術を持ち、長年にわたって改善に取り組んできたのです。一例を挙げてみましょう。

 1882年に静岡でブリキ細工製造販売会社として開業した「村上開明堂」は、いまや自動車のバックミラーの約4割を供給する業界最大手の会社となりました。1世紀以上、この会社を成長させてきた原動力こそ、技術者たちの「改善意欲」にほかなりません。例えば、「サイドミラーに水滴が付いたり曇ったりしないようにしたい」というお客さまの要望に応えるために、数多くの工夫を積み重ねてきたといいます。

 最初は車の走行風を利用して水滴を飛ばそうとしましたが、雨天ではあまり効果がありません。次に表面に水をはじく特殊な膜を付けたうえに超音波振動で霧状にして吹き飛ばしましたが、今度は表面に曇りが付いてしまいました。そこでヒーターを内蔵して曇りを取るという機構を組み込んだミラーを作ったのです。

 ここまでで終わりであれば、単に高度な機構を追加したミラーなのですが、さらなる改善が続きます。撥水(はっすい)膜を変えて水滴を平面形状にするというものを開発したのです。その結果、曇りを取るためのヒーターは不要になりコストが下がったということです(参考文献:『千年、働いてきました』)。

 このようなしつこいまでの向上心を持ち続ける技術者集団がいることこそ、この会社の最大の強みといえます。ここで紹介したい「改善意欲」とは、良いものを作りたい、お客さまに喜んでほしい、というこだわりが基盤になっているのです。

マネジメント能力

 3つ目の「マネジメント能力」は、前述の2つを統括するうえで重要な意味を持っています。マネジメントを「管理」と直訳してしまうと誤解を招きますが、筆者の意図する意味は「周りの人の能力を上手に引き出し、活用する能力」となります。最近流行の「ファシリテーション」(注1)とほぼ同義と考えていただいても構いません。こちらも老舗企業の例でご説明しましょう。


注1:ファシリテーション 会議などグループによる活動が円滑に行われるように支援すること。特に目標を達成するために、問題解決、合意形成、学習などを促進すること。


 軽井沢にある「星野リゾート」は、1904年創業の老舗温泉旅館を経営していますが、近年はリゾート再生請負会社として非常に有名です。現在3代目社長の星野 佳路(ほしの よしはる)氏が経営を担うオーナー企業ですが、よくある独断専行のワンマン経営とはまったく正反対ともいえる経営スタイルを貫いています。一言でいえば、“社長は決めない”のです。徹底した権限委譲ともいえますが、それだけではなく、事業運営そのものを社員自らが選任したディレクターたちが行っています。その中で最終経営責任を持つ星野社長は、首尾一貫してディレクターたちの意見を積極的に引き出し、尊重して、実践させているそうです。

 例えば経営会議の場でも、部下たちの提案に対して、常に「どうしますか?」と質問を返し、ディレクター自らが決断することを迫ります。部下たちも自らの提案には責任を持たなくてはなりませんから、おのずとよく考えたうえで行動するようになるのです(参考文献:『これまでのシックスシグマは忘れなさい』)。

 他人に決めてもらい責任まで持ってもらうようでは、自らは思考停止の指示待ちに陥ってしまう恐れがあります。これだけ環境変化の激しい時代に、現場でいちいち他人の判断を仰ぎながら仕事を進めていたのでは、とても追い付かない状況ではないでしょうか。このような自ら考える力を導く「マネジメント能力」の向上が現場に強く求められています。

 ここまで説明してきたとおり3つの評価軸は単に定性的な考え方だけでなく、それぞれ定量的な指標としてとらえることができます。およその目安として、「固有技術」は(財務的)価値の大小によって、「改善意欲」は効果創出金額の大小によって、「マネジメント能力」は影響効果の大小によって評価することが可能です。

 これらすべてを兼ね備えるスーパーマルチタレントばかりが育てば、きっと何の不自由もないと思いますが、企業という大勢のメンバーが役割分担したチームで仕事を進めていく中ではそう都合よくはいきません。しかしながら、少なくとも現場リーダーを志す方にはこの3軸のレベルアップを図ってほしいと思います。

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