同社におけるSPADセンサーの開発史を振り返ると、2020年4月にスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)との共同成果として、世界で初めて(同社調べ)100万画素のSPADセンサーを発表したことに始まる。2021年12月には320万画素のSPADセンサーを開発し、この技術をベースに2023年8月、SPADセンサー搭載の超高感度カメラ「MS-500」を製品化した。そして2026年5月、さらに低照度性能を高めた新機種「MS-510」を製品化した。
MS-510は、約320万画素1.0型の新SPADセンサーを搭載。最低被写体照度は、従来機「MS-500」の0.001luxよりもさらに暗い環境にも対応できる0.0006luxとなり性能が向上した。また、ナイトモード設定時には、センサー前面のフィルターがIR透過フィルターへと切り替わり、可視領域から近赤外領域まで幅広い帯域の光を取り込む仕組みとなっている。これにより、極端な低照度環境や、近赤外光の検出が求められるユースケースにおいて、被写体の視認性を確実に確保する設計だ。
製造業や研究機関といった新たな需要に応えるため、ハードウェアの構成も柔軟なものとした。MS-510では、遠方監視を想定した標準仕様として放送用レンズに対応するB4マウントを採用しており、豊富な高倍率超望遠ズームレンズを活用できる。一方で、製造ラインや研究室向けには、レンズマウントをCマウントに変更して提供することが可能だ。各社のCマウントレンズや顕微鏡に装着することで、至近距離での微小な観察や分析用途にも対応する設計となっている。
実際に製造業においては、クリーンルーム内における微細なほこりの検出や、医療機器の製造現場での微小な欠陥検知などで、検証を進めているという。
研究/学術機関では、分析や計測の用途での活用が期待されている。具体的には、放射線や紫外線など目に見えない光による蛍光発光の検出や、近赤外領域で発光する蛍光体の検出などだ。従来は捉えにくかった散乱光や微弱な発光をノイズを抑えて可視化できるため、暗所での測定精度の向上や、測定時間の短縮といった効果が見込まれている。従来機種と比較して使用温度範囲を-20℃〜+45℃と幅広くしたことで、温度変化の激しい現場や冷蔵工場であっても安定した運用を可能にする。
価格はオープン価格となっているが、市場想定価格は従来の超高感度多目的カメラ「ME20F-SH」の約350万円に対し、MS-510は約500万円となる見込みだという。なお、同製品は高度な性能を有するため「特定機微製品」に指定されており、実際の導入にあたっては、キヤノングループの安全保障貿易管理ルールに準じた上での提供となる。
同社は従来の防衛/インフラ市場への販売を継続しつつ、製造や研究機関など新規市場での導入実績の増加を目指す。また、これらの新たな現場で得られたニーズを、今後の商品展開にも生かしていく構えだ。
キヤノンマーケティングジャパン NVS企画本部の渡邉竜弥氏は、「超高感度カメラは、これまでは防衛やインフラ監視といった分野が中心だったが、今回の『MS-510』の展開を通じて、今まで見えていなかった全く新しい市場への広がりを実感している。製造業のお客さまが抱える課題は製品品質に直結するからこそ、新しい可視化の技術として知ってほしい」と結んだ。
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